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「ネットの税金情報は鵜呑みにするな」国税局OBが語る

2020年、国税による調査方法が大きく変わる

仮想通貨脱税――国税局は今後どういった対策を練っていくのでしょうか? 大河内:FXの時はいろいろあって分離課税になったじゃないですか。仮想通貨もそれに倣って分離課税にしたほうがいいと思っています。税率を2割にしてあげることで経済も潤うし、仮想通貨が発達するとその下のテクノロジーも育つじゃないですか。金融庁はそこをまったく考えてない。やり方次第では、仮想通貨大国、ブロックチェーン大国日本になりえたと思うんですよね。 佐藤:産業を育てる経産省と、締め付けを行う金融庁や国税庁との間でせめぎ合いはたくさんあったと思います。やっぱり「税=政治」と言われるくらい、そこの取り決めに関してはなかなか難しい。  ただ、私も分離課税にするというのは賛成です。現状では仮想通貨の税に関して把握できるのは日本の仮想通貨交換所だけで、KYC情報(※)すらままならないですからね。税率は2割でいいから自分で申告してくださいってやったほうがはるかに理に適っている。 ※KYC=Know Your Customer 顧客の本人確認義務のこと 大河内:難しいことは重々承知ですが、そういった議論が交わされているのかどうかさえ僕たちの耳に入ってこないということには腹立たしささえ感じます。 佐藤:もちろんいずれ変わるんでしょうけど、もう少し定着して一般の人たちも手を出すようにならないと、仮想通貨だけを取り出して他の金融商品と同じような扱いにするにはまだちょっと時間がかかるかもしれないですね。  あとは、仮想通貨自体も今後衰退する可能性があるわけですし。というのも、日本とヨーロッパとの共同で電子通貨を開発するというニュースもあって、国や中央銀行が出すような新たな通貨が出回ったら、仮想通貨も流通しなくなると思うんですよね。そういった仮想通貨の行方というか、どれくらい生き残れるのかも考えていかなければいけないですよね。 大河内実際、ビットコインでものが買えるお店もなくなっちゃってきてますよね。店側としても管理が大変だし、もらった翌日に価値が下がっていたら意味ないじゃんっていうのもありますしね。 佐藤ただ、2020年からそういった仮想通貨に対する取り締まりが強くなっていきます。国税は調査に活かすために資料情報を集める調査を行いますが、今までの法律だとそれに協力してくれない業者もいたんですね。国税の情報調査には協力しません、もしやりたいんだったら実地調査にきてください、と。  でもそれだとあまりに非効率的なので、法改正を行い協力しなかった場合にはペナルティを作りました。その法律が今年から施行されるんです。これは国税側からすると念願の強力なツールのひとつなんですよね。これは仮想通貨業者だけに限定する訳ではなく、いろんな場面でそういう手法が取られるようになっていくと思います。

商人の街・大阪は税に対してもシビア

――佐藤さんはいわゆる「国税OB税理士」ですが、ここだけの話、脱税絡みの相談などもあるのでしょうか? 大河内:もう無理なんだけど、国税OBなら何とかしてくれるんじゃないかみたいな(笑)。 佐藤:HPを見てたまに真っ黒な人が来たりすることもありますね。「1000万円くらい積めば何とかしてくれますか?」みたいな。そんなもの受けられるわけがないですよね。私も一緒に税理士法で処分されちゃいますし。 大河内:やっぱり昔は国税OBが調査に立ち会っていることで結果が変わるみたいなことは、あったと思うんですよね。課税の公平性という観点からは、どうなんだろうと思いますが。 佐藤:昔は多分にあったでしょうね。だからこそ今もそれ目当てでやってくる人がいる。あと大阪の方が相談に来られるのが非常に多いですね。大阪は商人文化と言いますか。 大河内大阪は確かにシビアですよね。僕も顧問料を1円単位で値切られたことがあります。ケチっていうと言い方が良くないですけど、めちゃくちゃお金に厳しい。 佐藤東京は権利意識が強い文化なので、国税職員が変な態度で接すると納税者が怒りますからね。だから東京が一番丁寧なんですけれども、大阪の連中から言わせると東京はぬるいと言われます。 大河内:納税者と税務署の取っ組み合いの喧嘩なんでしょうね。

インターネットの情報はやはり眉唾物!?

――最後に、一般市民の方が税金に対して気をつけたいことはありますか? 佐藤インターネットで調べたことを鵜呑みにしないことです。ちゃんと資格を有して登録している税理士に話を聞いていただくのが一番いいですよね。ちょっとくらいの話であれば何十万円とか吹っ掛けられることもないので安心してください。 大河内:僕もほぼほぼ一緒で、それが経費になるとか、それは税金がかからないとか、決めるのは納税者じゃありません。あくまで国税局なんですね。ネットの情報が果たして税務調査を潜り抜けた情報なのか、潜り抜けていたとしても置かれた立場によって結論は変わるんじゃないかとか、考えていくと全然あてにならないんですよ。  だから参考にして欲しいのは、税理士事務所のブログとか、専門家自身の発信ですね。気を付けたいことは、税理士にも得手不得手があります。何でもできますって言う税理士はあんまり信じない方がいいんじゃないですかね。相続税専門の人が所得税の処理を高いレベルで行うのは正直厳しいはずなんですよね。でも、僕はこれが専門ですって言わない税理士があまりにも多い。そういうところもしっかりチェックした方がいいですよね。  仮想通貨の税体制や、仮想通貨にかかわらず脱税そのものに対する対策について厳しい評価をくだす両氏。二人の活動によって日本が税に関してクリーンな国へと変わっていくことを願うばかりだ。 大河内 薫氏 税理士。株式会社ArtBiz代表取締役。自称「日本一発信する税理士」。 Twitterフォロワー4万人超、YouTubeチャンネル「税理士大河内薫の税金チャンネル」登録者9万人超。最新メディアやSNSで知ってトクするお金と税金の話を全力発信中。スーツを着ずに”税知識をカジュアルに発信”がモットーで「お堅い、まじめ」などの税理士イメージ打破を目指す。日本では稀な芸術学部出身の税理士として、芸能・芸術・クリエイター特化型税理士事務所を経営。 著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(SANCTUARY BOOKS)は発売1年で6万部超のベストセラー。 佐藤弘幸氏 元国税局勤務。現税理士。プリエミネンス税務戦略事務所代表。 国税職員時代には東京国税局課税第一部課税統括課、電子商取引専門調査チーム、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査課、同部第三課に勤務。伝承取引事案、海外事案など、大口から悪質なものまでさまざまな税務調査を担当。 1月下旬、実在の仮想通貨の脱税事件をモデルにした金融小説『仮想通貨脱税』(扶桑社)を刊行。ほか著書に『国税局資料調査課』(扶桑社)、『税金亡命』(ダイヤモンド社)などがある。TV、雑誌のコメンテーターとしても活躍している。 <取材・文/櫻井一樹 写真/八杉和興>
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仮想通貨脱税

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