「ネットの税金情報は鵜呑みにするな」国税局OBが語る
国税OB税理士としてTV・雑誌のコメンテーターや税に関する著書を多数持ち、1月24日に『仮想通貨脱税』を出版した佐藤弘幸氏と、TwitterやYouTubeでの活動を通して税知識をカジュアルに発信する新進気鋭の税理士・大河内薫氏との対談が実現した!
前編では国税職員の実態を暴露。確定申告を目前に控え、今回は「脱税」について、法整備や制度の観点から二人の意見をじっくりぶつけ合ってもらった。
――『仮想通貨脱税』という本のタイトルにもあるように、仮想通貨を使った脱税事件が2010年代後半に横行しました。税のスペシャリストであるお二人に、そのあたりをお伺いできればと思います。
大河内:2017年前後から、ICO(仮想通貨の新規発行)がめちゃくちゃ流行りましたよね。
佐藤:実際にICOは数えきれないくらいの億り人を輩出しました。今は仮想通貨は下火になっていますが、ICOで何倍にも膨らませ、そこからビットコインやイーサリアムに代えて値上がり益を取ることを繰り返すことによって、何百倍、何千倍にまで資産を増やした人もいました。
大河内:でも、ICOはとにかく嘘やでまかせが多かった。
佐藤:ホワイトペーパーといって、株のIPOでいうところの目論見書みたいなものがあって、ICOの場合はペラ1枚くらいの薄い事業内容が書いてあるだけだったり、実現不可能な壮大な夢物語が描かれているだけだったり。今考えたらそんなものを信じること自体おかしな話でしたね。そこで騙された人もものすごく多いと思います。私自身、ICOで損をしたうちの一人ですし。
大河内:やはり仮想通貨ブームの爆発の陰にはMLM商法(マルチ・レベル・マーケティング。マルチ商法のこと)とのマッチングが大きかったんですか。
佐藤:それも大きな要因の一つですよね。ICO単体で出資者を募っていてもやはり限界があるので、人的ネットワークが使えるMLM商法の団体との関わりが非常に大きかった。MLM側も商材に困っていたし、時流に乗ったものを商材にして生き残ってきたという過去があるため、両者の思惑が完全に一致したんですね。
大河内:MLMが仮想通貨に食いついたことで、とんでもない額のお金が仮想通貨に流れ、あの暴騰劇が起きたと。ただ、ICOを買った人がさらにそれを紹介するという、マルチ的な商法も蔓延るようになりました。そうした不正な経済的利益に対して課税がなされていないことが多いと思っていて、それを国税局がどう成敗していくのかが見ものだと思います。
佐藤:もちろん当局側もそういった輩を討伐したい気持ちはやまやまだと思います。しかし、コインチェック事件によって警察のサイバーポリスの技術を持ってしても、犯罪者を追いきれないということがわかってしまった。やっぱり直接キャッシュで取引をされてしまうと、もうわからないですよね。
プロ集団であるサイバーポリスでさえ手をこまねいているのですから、規模も小さく専門能力も明らかに格下のサイバー税務署が手に負える案件なのかは甚だ疑問です。そうすると、過去にICOで儲けた連中の課税というのはかなり難しいと言えます。
大河内:ICOの発行体がシンガポールや香港に逃げてしまうと、そもそも課税することはできないですからね。タックスヘイブンが適用される証拠を残していればいいですが、完全に課税権がない場合も多いと思いますし。
佐藤:あとは詐欺案件で儲けた人物をどう事件にするのか。それとも事件にすらできないのか。そういうことも見物ですね。詐欺っていうのは最初から騙そうとしていなければ詐欺として立件できない。例えば「配当を出しますよ」と言って最初の2割とかをきちんと配当してさえいれば、そのあとは資金繰りがうまくいかなくなっちゃったとか言ってトンズラされても、詐欺にはならないんですよね。
大河内:それってただのポンジスキームだから、それで罪状が軽くなるというのはおかしな話ですよね。
ICOとMLM商法は消費者にとって最悪のマッチング!
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