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年収800万円から生活保護へ。38歳で「ゴミ屋敷から這い上がれません」

 日本社会の格差がますます広がる中で、人間が安心して暮らすための基盤である“家”の存在が揺らいでいる。年収100万円台の人たちは、家すら失う事態に陥っているのだ。貧困に苦しむ人たちの住宅事情をリポートした。
家賃4万円の木造アパートは腐乱臭が漂うゴミ屋敷

大森雄二さん(仮名)38歳

家賃4万円の木造アパートは腐乱臭が漂うゴミ屋敷

▼大森雄二さん(仮名)38歳 生活保護 「本当は社会復帰したい……でも、這い上がれないんです」  蓄積した疲労は、思わぬ貧困をもたらすことがある。食品会社の正社員と配送業のWワークで年収800万円を稼いでいたという大森雄二さん(仮名・38歳)。人生が激変するきっかけとなったのは、10年前、残業が続いた冬の雨の夜だった。 「重い荷物を担いだまま路上で転倒し、股関節を骨折したんです。昼の職も失い、いまは生活保護を受給しています」  大森さんの自宅を拝見するため、板橋区・大山駅からほど近い住宅街に佇む築51年、家賃4万円の木造アパートを訪ねた。天井からはクモの巣が垂れ、床にはなぜかビニール傘が散乱。壮絶なゴミ屋敷とは真逆の爽やかな笑顔で微笑む大森さんの姿は、雑なハメコミ写真を見ているようだった。 「物が多い部屋なので、土足で入っていいですよ~」  その言葉通り、玄関から続く4畳二間の部屋は間仕切りの戸が倒壊し、奥の部屋までビッシリとビニール袋や衣類が積み上がっている。ゴミの頂上に座るよう勧められるが、部屋中に漂う腐った卵のような臭いが気になる。 家賃4万円の木造アパートは腐乱臭が漂うゴミ屋敷 玄関脇の台所には段ボール箱と衣装ケース、衣類が交互に積み上がる。洗い場の洗面器に入った濁った水は、いつのものかわからないという。 「東日本大震災のときに歪んで閉められなくなった窓のせいで、暖冬の今年でも部屋の中は極寒です。修理したいけど、生活保護にゴミ屋敷だから、大家さんとなるべく接触したくないんです……」  過酷な環境でも大森さんが飄々としていられる理由は何なのか。

後遺症と毒親に追い詰められうつ病に

「ここに住んで10年くらい。以前は自営業で年金未払いだった両親に仕送りをするために、がむしゃらに働いていました。今は受給額14万円とバイト代2万円を合わせても年収95万円程度。当然、仕送りできるはずもなく、100円おにぎりをかじる暮らしです」  だが、働けなくなっても家族から仕送りの催促がやまず、ストレスでうつ病を発症。家族とは絶縁した。 「仕送りのため蓄えがなく、ケガの治療が終わった頃には無一文でした。ハローワークで求職活動は続けていますが、ブラック求人ばかり。昨年ようやくありついた不定期バイトで、糊口をしのいでいます」  大森さんが“捨てられない”状態になったのは、現在のアパートに住んでからだ。後遺症の関節炎もあり、片づけられない家財道具とゴミが混然一体に積み上がる一方となった。ほかの住民も「全6室のうち5部屋は生活保護受給者。皆、声を潜め生きている」らしく、悪臭が漂っても苦情などはこないという。 「生活保護から抜け出したいけれど、若い頃のようには働けない。求人票を見つめる日々です」  将来への不安とゴミが、今日も大森さんの部屋に積み上がる。 <取材・文/週刊SPA!編集部> ※週刊SPA!2月4日発売号の特集「[年収100万円ハウス]の惨状」より
年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-

この問題を「自己責任論」で片づけてもいいのか――!?
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