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初めて体験する新型コロナをめぐる状況。今はたくさん映画を見ています/鴻上尚史

仲間への愛は、外部への憎しみに

『レ・ミゼラブル』も感動的な映画でした。  ミュージカルで有名な方ではなく、ラジ・リ監督の初の長編作品です。  2019年のカンヌで審査員賞を受賞し、アカデミー賞では、フランス代表として国際長編映画賞にノミネートされました。  舞台は、パリ郊外の犯罪多発地帯モンフェルメイユ。  この街の描写が凄まじいです。貧困と移民と人種間対立と。  ラジ監督がこの街に生まれ、今もこの街に住んでいると知ると納得します。  映画全体から、監督の「この状況をなんとかしたいんだ! なんとかしないとダメなんだ!」という悲鳴が響いてきます。  物語は、この街の犯罪捜査班にステファンという新人が加わる所から始まります。  三人一組でパトロールするのですが、先輩の二人は、子供だろうが容赦なく、乱暴に扱います。  それをとがめるステファンに、こうやらなければなめられる、これがもっとも正しい方法なんだと譲らないのです。  大人も子供も、小さなグループに分かれ、なんとか肩を寄せ合い、必死に生きている様子が痛切に伝わってきます。  小さくまとまり、助け合うからこそ、他者に対しては不寛容になります。仲間への愛は、外部への憎しみに転化するのです。  物語は、ささいなことから、激しい対立へのクライマックスへと進んでいきます。  憎悪と対立と不寛容は、今、ここまで来ているんだという圧倒的なリアリティーがあります。  対立が対立のまま、憎悪が憎悪のまま終わるのだろうかと心配していたら、最後に、監督の祈りがありました。それはまさに、祈りとしか言えないものでした。 ※週刊SPA!3月10日発売号より
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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