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鴻上尚史、渾身の最新エッセーは38年間の「ごあいさつ」

渾身の最新エッセーは、22歳の旗揚げ公演から38年間の「ごあいさつ」

ドン・キホーテのピアス 世の中が新型コロナでわちゃわちゃしている時なんですが、新刊が出ました。 『鴻上尚史のごいあさつ1981―2019』(ちくま文庫)です。  いや、この本だけは特別なんですわ。もちろん、今までのどの本も大切ですよ。でもね、なにせ、この本には、おいらの38年間がつまっておるのですよ。 鴻上尚史のごあいさつ1981―2019 僕の芝居を見た人なら、僕が「ごあいさつ」と呼ばれる手書きの文章を配っていることを知っているはずです。  ノートに見開き1ページ手書きで、それをコピーします。大規模な公演だと、何万枚もコピーします。大変ですが、一人一枚、渡るように観客の数だけ制作に頼んでコピーしてもらってます。  もともとは、初日に演出家としての仕事がぱったりとなくなったことが始まりでした。  おいらは、22歳で劇団を旗揚げしたわけですわ。で、半年ぐらい稽古しましたね。1981年5月15日、初日でした。はい、もう歴史の1ページぐらいの古い話ですね。7時から本番でした。  昼に集合して、最後の稽古をして、5時過ぎになりました。 「それじゃあ、本番、よろしくお願いします。演劇界のテッペン取ろうぜ!」なんていう青春の特権のあおり言葉を言って、俳優もスタッフも「うしっ!」だの「よろしくお願いします!」だの応えて、各自、散ったわけです。  俳優は、軽く食事を取って、メイクですね。食べない奴は、一人で集中するとか、台本を見返す、なんてこともしますね。  スタッフは、戦争状態ですね。照明担当は、もう一度、すべての照明機材がつくかどうかチェックするし、音響はテープがちゃんと順番にそろって、音はちゃんと出るか、舞台スタッフは小道具の最終チェックなんてことですね。  みんな、忙しいのです。  ところが、ここにただ一人、やることがなくなった人間がいたのです。はい、それが演出家でした。
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「ごあいさつ」が生まれた理由
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