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現実に格闘するブレイディさん親子の日常が感動的な理由/鴻上尚史

カウンターの中の論理と想像力

 昔、大学時代の友人が、「スナックのバイトして初めて分かったんだけどさあ」と話したエピソードがありました。 「お客さんが『にいちゃん、焼きそば』って注文するのね。で、作って出すと、隣の客がそれをみて『あ、俺も』って言うの。言った本人は、何の悪気もないんだけど、こっちとしては『最初に言ってくれたら、一度に二人前作れるから、手間が省けたのに』って思うんだよ。でもさ、このことを人に言っても、『へえ、そうなの? もう一回作ればいいじゃん』って反応する人がほとんどなの。でも、カウンターの中に入るバイトをしたことがある人だと『分かる! それ、すごく分かる!』って言うんだよ。これを俺は『カウンターの中の論理』と名付けたね。で、俺は思ったんだ」  大学時代の友人は真面目な顔になりました。 「誰かが『焼きそば』って言って、自分も食べたくなりそうなら『あ、俺も』って、その時に言うのはもちろんなんだけど。  たぶん、他にも一杯、『カウンターの中の論理』はあるはずなんだよね。でも、実際にカウンターの中に入らないと分からないことが多いんだ。俺は、これからは、なるべくカウンターの中に入らなくても、想像力でなんとか、『カウンターの中の論理』を理解したいと思うんだ」  これがたぶん、「エンパシー」のことだと思います。他人の状況に共感できる能力。  イギリスは、日本と比べものにならないぐらいさまざまな人種が日常的に学校に通っていて、貧富の差も日本以上に激しくて、アジア人差別も普通にあって、そういう中で、憎悪と対立だけで生きていかないようにするためには、「エンパシー」という能力がどれほど大切かと、骨身に沁みるのです。  この本で書かれている日常は、将来、日本が直面する事態のような気がします。だからこそ、先に現実と格闘するブレイディさんと息子さんの姿が感動的なのです。3月21日、オンエアです。はい。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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