2年夏はケガでベンチ入りできなかったが、木内監督は3年生となった新宮を主将に任命する。それはエースで四番の大黒柱というタイプではなく、脇役に徹しチーム全体のことを考えてやっている姿勢を買ったものだった。 「2年の時に練習試合でダブルヘッダーをやって、1試合目の先頭バッターの僕が初球か2球目を打ち上げてショートフライに終わったんです。1番バッターとしてそれは失格なんですよね。相手ピッチャーがどういうタイプなのかを読み取るまでもなく終わらせてしまった。それでベンチに帰ると木内さんから『おめえなんか二度と使わねえからな。さっさと帰れ！』と怒鳴られたんです。帰れと言われても遠征先だから帰れない。 　とりあえずベンチから出て離れたところでじっとしていたんですけど、2試合目が始まる前に仲間が『新宮、おまえ次の試合もスタメンに入っているぞ』と呼びに来た。そこでよし、取り返してやる！と頑張れたんです。あとでコーチに聞いたところ、メンタルの切り替えというか、そこで本当に帰っちゃうやつもいるし不貞腐れるやつもいる。頑張るやつもいる。そこを監督は見ていたのだと」 　団体競技――フォア・ザ・チームにおいては個人の精神状態が全体に影響を及ぼす。一人が落ち込めば全体の士気も下がるし、三振したからといって荒れたらネガティブな空気に包まれてしまう。 　この件を機に、新宮は三振しても表情を変えることなくベンチへ戻るようになった。チームとしてはアウトが1つ増えただけ。自分が落ち込んでいるのを見せたところで、誰の得にもならない。 　チームの勝利が目標であって、自己表現がしたくて仲間たちと一緒にやっているのとは違う。裏方としての地盤を、新宮は野球を通じ学んでいたことになる。 「だから今も、できるだけにこやかでいようと思っています。自分の怒りやイラ立ちによって、関係ない人に影響を与える必要なんてないわけですから。もちろんたまに出ちゃう時はあるけど、それは対象者に向けたものであって、ヨソの嫌なことを『なあ聞いてくれよ。この前、こんなことがあってさあ、頭にきたよ』とかいってヨソへ持ち込まないように努めています」