原発と闘う小さな島の30年史
―[原発と闘う小さな島の30年史]―
◆小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(1)
エネルギー自給100%、農業・漁業・福祉の自立を目指し島民の闘いは終わらない
瀬戸内海に、約30年にわたって原発を拒否し続けてきた小さな島がある。山口県上関町・祝島だ。周辺住民が補助金を受け取り原発受け入れと傾くなか、頑なに原発を拒否し続けた島民たちは、原発経済・補助金行政に依存しない島づくりを目指し始めている。
瀬戸内海に浮かぶ小さな島、山口県上関町祝島。約500人の島民が、主に漁業や農業を営んで生活している。82年、この島の対岸3.5kmにある田ノ浦地区に、上関原発の建設計画が持ち上がった。反対運動の中心として活動してきた漁師の山戸貞夫さんはこう語る。
「島の漁師たちが、中国電力に小旅行だといって伊方原発(愛媛県)に連れていかれ、原発の経済効果と安全性を説明されたんじゃけど……。地元の漁師に聞いてみると、カネをもらったはいいけど、海の温度や海流が変わったからか、それまでみたいな漁ができんくて困っちょるという。こりゃ海を壊すし、いかんわと思った。海はカネには換えられん」
地元8漁協のうち、祝島漁協だけが約10億円の補償金受け取りを現在まで拒否している。
「漁獲高に影響があるだけじゃなく、風評による値崩れも心配。それに、祝島では釣り客を漁船に乗せる遊漁業も盛ん。原発の前で誰が釣りをしたいかね?」(山戸さん)
島民のなかには、福島原発で働いていた者もいた。原発での労働現場がいかに危険かを聞いた彼らは危機感を募らせ、「愛郷一心会」(現・上関原発を建てさせない祝島島民の会)を立ち上げた。原発問題は町長選や町議選で常に最大の争点となり、建設推進派と反対派で町を二分する大論争となった。島民たちは議会を傍聴のため町議会のある長島へおしかけ、推進派議員に抗議した。毎週月曜日に行っている島内での反原発デモはもうすぐ1100回になる。強行される中国電力の現地調査や工事に対して、漁師たちは漁船を出し、体を張って阻止行動を続けた。
原発建設の趨勢は止められなかったものの、こうした現場での奮闘が建設を遅らせ続けてきたのだ。
2010年9月から、中国電力は本格的に田ノ浦の埋め立て工事を強行し始めた。中国電力の作業員たちと祝島の島民たちが、海上で顔を合わせた。双方激しく口論し、年配の女性が歌を歌って抗議する。中国電力側は警備員を大量に雇って人間バリケードを作り、その中で作業を進めようとする。
その過程で、島の女性が作業員に押され、怪我をする事件が起きた。現場にいた中国電力の社員は全く動かない。結局、海上保安庁の船が搬送したが、これには島民も怒り心頭に発した。
福島第一原発事故後の3月15日、中国電力は工事中止を発表。しかし、散発的に発破作業を続けるなど、事態は予断を許さない。
⇒(2)「ビワ栽培で“原発経済”を拒否」へつづく
【祝島映画情報】
原発反対を貫く祝島の人々と、スウェーデンで持続可能社会を構築する人々を描いた作品『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督)が東京・渋谷ユーロスペースにて上映中。全国各地での自主上映など詳しくは公式サイト(http://888earth.net)で。
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