ビワ栽培で“原発経済”を拒否
―[原発と闘う小さな島の30年史]―
小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(2)
ビワ栽培、棚田再生etc.で経済的な自立を目指す
ある推進派の町民が口にした言葉が、山戸さんの耳にこびりついている。
「命が惜しくてカネがもらえるかね!」
原発建設計画が持ち上がった約30年前に比べて島の人口は半減、高齢化も進んだ。仕事がないため若者が島に戻ってこず、医療や介護問題も深刻になる一方だ。
「カネを餌につけ込まれて原発経済・補助金行政に依存しないよう、経済的にも自立を目指さんと」(山戸さん)
山戸さんの息子・孝さんは、中学を卒業後、島を出て大阪で就職したが、島に戻ってビワを食べ、そのおいしさに「これで食っていける」と自信を持ち、Uターンを決意したという。
ビワは無農薬栽培で、葉を加工した「ビワ茶」も作り始めた。ひじきや干し大根などとともに直販で高い評価を受けている。「何とか軌道に乗ってきました」(孝さん)。
北海道で肉牛を飼育していた氏本長一さんもUターン組。現在、祝島の代名詞のひとつでもある「棚田」の再生を目的とした循環型農業を実践中だ。
「島には、耕作放棄されて荒れ放題の棚田がたくさんあります。まずそこに牛を入れて雑草を食べてもらいます。その後で豚を入れると、土の中の草の根やミミズを食べようとして鼻で土を耕してくれます。重機などでやるよりもずっと効率がいいし、家畜の糞が肥料にもなります」
家畜の餌はほかに、売り物にならないビワや家庭の生ゴミ、畑で余った野菜などを与えている。
「おかげで、島外に送って焼却処分をしていたゴミの量も減り、一石二鳥です」(氏本さん)
安全な飼料を食べ、完全放牧で健康的に育った家畜はブランド肉となり、東京の一流レストランに高値で仕入れられている。また、牛や豚が棚田から逃げないよう張り巡らされた電線は、自家用の太陽光パネルから給電されている。
⇒(3)「危険な電気はいらない」自然エネルギー100%プロジェクト
【祝島映画情報】
原発反対を貫く祝島の人々と、スウェーデンで持続可能社会を構築する人々を描いた作品『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督)が東京・渋谷ユーロスペースにて上映中。全国各地での自主上映など詳しくは公式サイト(http://888earth.net)で。 ハッシュタグ