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<純烈物語>酒井がマネジャーを戦略的に“獲りに行った”理由<第39回>

純烈=「アマっぽい野球」

 一つひとつの仕事と真面目に向き合い、現場で信頼関係を築き、そしてそれを新たなポジションで生かし続ける。その中で出逢った酒井が、新宮の中にある「プロになってもアマっぽい野球がやりたい。つまりは純烈のようなこと」に気づいた。  新宮の方は、社内でアーティスト担当制が導入された時に自ら手をあげたと言っていた。つまり同じような思いを抱いた結果、合致するタイミングが訪れたことになる。  取材の中で何度となく新宮の口から出てきた「一蓮托生」の4文字。アーティストとレコード会社担当の一般的な関係性を超えて踏み込むことで、純烈に多大なる貢献をしている。そこに関し、酒井は「ここまで」という線引きをしているのか。  新宮も言っているが、どんなに運命共同体のつもりでやっていてもどこかの段階で壁は立っている。団体や選手に思い入れを持ち、それこそ一蓮托生だと思って情熱を注いでも、ある日突然「あなたは“こっち側”の人間ではないから」という刀を振りかざされる。  プロレス界でも、そういった経験は何度となく味わってきた。それをして非情と思うかどうか。言っていることは間違っておらず、確かに団体関係者でなければ、ましてや同じプロレスラーでもない。平たくいうとビジネス上の付き合いとなるのだが、その味気なさがほろ苦い。 「あー、その話を聞くと僕もプロレスラーの境地でやっているんだと思う。これはたとえばの話ですけど、純烈はクラウンに残した上で別の新しいグループを作ろうとした時、可能性を広げるべくほかの会社にも振るとするじゃないですか。そうなると、そっちのプロデュースで、純烈にいながら次のところへと目がいくようになる。そうなった時、新宮さんとの距離感がどうなるかは、なってみないとわからない。  ただ、新宮さんにも自分の夢や目的はあるし、続ける中で欲が出てくるはず。それに合わせて、基本方針を伝えた上であとは欲のままにやってもらえばいい。もちろん、勝手にやらないようにはしてもらうけど、やった方が楽しいと思うしね」  じっさい、新宮はこのまま永遠にアー担から離れたくないと思っている。楽しさだけではない。プロデューサーやサポートするスタッフが、アーティストを導くのが業界内における本流のやり方である中、自分は純烈によって紅白に連れていってもらったという感謝の念が強い。  だから「売れると『俺があいつを売ったんだ』と言う人がいるけど、純烈は誰も言っていない。俺が純烈を売ったと言っている人がいたら、それは嘘です。近しい人ではないです。だってあの人たちは自分で売りましたもん」と、少しだけ強めの口調で訴える。ただ、どの会社にも人事異動はつきものだ。 「僕がいなければ純烈が成立しないというわけではないので、いつどうなってもそこで支障が生じるわけではないと思いますけど……僕と純烈、山本(浩光マネジャー)さんとの関係値と同じものをゼロから築くのは難しいでしょうね。紅白へ出るようになってから見た風景だけで、その前のあの風景を見ているのといないのとでは、その築き方もまったく違ってきますから」(新宮) 「きっと新宮さんは、純烈から離れた方が真価を発揮できる人なんです。その四十代を買い取りたいぐらい。いなくなったら困る? いや、困らない、ハハハハ。ただ……困らないけど寂しい。これは新宮さんに限らず、今の純烈は僕も含めて誰かがいなくなっても大丈夫なぐらいの勢いが宿っている時期だと思うんで、業務に関してはなんとかなっちゃう。けれども、そこで生じる寂しさについては代えがないですから――」(酒井)  ☆  ☆  ☆  時間にしてキッチリ2時間。新宮は純烈との関係性を語った。それは担当するアーティストに対する口調とは、ちょっと違っていた。  自分にとって大切なもの、好きなことについて語り出すと止まらなくなるあの感覚の方に、どちらかというと近かった。だからといって激しい口調になったり、こちらの話を聞かずに止まらなくなったりするわけでもなく、終始落ち着いた喋り方。  それでも純烈への思いは、演歌のようにじんわりと染みてくる。これが、酒井がよく口にする「熱量」というものなのだと実感した。 ※この項終わり。次回からは「純烈丸に同乗する人々が語る物語」をいったん休止し、新型コロナウイルスの影響でライブ活動ができない状況が続く中でリーダー・酒井一圭を緊急直撃。その心中をお届けします。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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