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<純烈物語>10年目の“ロクテンニーサン” 初めての無観客ライブで目撃した物語<第52回>

純烈大江戸無観客

<第52回>10年目の“ロクテンニーサン”純烈無観客ライブで目撃した物語

 約1年前、「東京お台場 大江戸温泉物語」(以下大江戸温泉物語)でライブをおこなう4人を訪ねたところから、この連載は始まった。日中より活気に満ちた館内。浴衣姿で走り回るチビっ子の姿、グッズを手にしながらお喋りをし開演を待つマダムたち、CD特設売店では『純烈のハッピーバースデー』のミュージックビデオが流されていた。  だが、2020年6月23日のその場所は……無人。新型コロナウイルス対策のため、施設は4月10日より臨時休館に入っていた。  江戸の雰囲気を再現した広小路エリアは息を潜めているかのようで、ひたひたという自分の足音が聞こえるほど。まさかこのような光景を見るとは、1年前は想像もしていなかった。  大江戸温泉物語で定期公演をおこなってきた純烈も、2月27日を最後にオーディエンスの前で歌っていない。世の中の情勢と向き合ううちに、4ヵ月が経とうとしていた。  その間、番組出演や個々の仕事は続けてきたが4人揃ってステージに立ち、まとまった曲数を歌うスーパー銭湯グループとしての活動は実質上休止。巷では「純烈解散の危機!?」といった見出しも躍った。  先が見えぬ中で酒井一圭は、それでもファンに元気を与えるべく頭を働かせた。今、純烈としてやれることを考えれば、無観客ライブという形は必然だった。  どのジャンルもオーディエンス不在のコンテンツで、どこまで可能性を見いだせるか模索している。無観客だからできないことよりも、何がやれるかを考えて少しでもファンを楽しませる。コロナによって、エンターテイナーたちはむしろ前向きになれた。 「6月23日がデビュー日で、丸10年ということでやってみようとなったんだけどメチャメチャ怖いですよ。これまで純烈って、ショッピングモールのおばちゃんを振り向かせる、健康センターのお爺ちゃんお婆ちゃんにこっちを向いてもらうという作業を続けてきて、アウェイの方が燃えるっていうのがあるんだけど、今回は誰もいないわけだから。自分自身、無観客ライブというものがどうなるのか想像できない。  新しいものだから、これも燃えるんだけどまとまった曲数を演るのはコロナになって初めてで、果たして体力が持つのか。3月に歌番組で1曲歌っただけなのに、全員肩で息をしてて笑っちゃった」  そう語ったあと、酒井は「無観客ライブのテーマは、ケガをしないこと」と言い、部活じゃないんだからと笑った。元メンバーの一人……いや、一匹であるアンドレザ・ジャイアントパンダが所属する社会人プロレス団体・新根室プロレスのスローガンである「無理しない、ケガしない、明日も仕事」は、純烈の現状にも当てはまるようだ。  体だけではない。歌詞や振り付けを忘れていないかという不安もあった。ライブの前々日、酒井は初めて自宅で一人リハーサルをした。  振り付けを確認すると抜けているところがあり、映像で見直した。歌詞も2番が出てこない。覚悟はしていたが、4ヵ月もブランクがあるとこんなになるものなのかと驚がくする。 「いつもなら誰かが滑ってもこいつを入れておけばアベレージは保てるなと考えてオーダーを組めるんですけど、今回は4人とも同じような状態だから全員がふわっとして滑り倒して終わるかもしれない。でも、それも収録して面白がっちゃおうと。今回のライブはその時に思ったことや現状をそのまま録った記録映像のようなものですよ」  本来ならばデビュー記念日ということで盛大にやりたかったはず。ただ、どんな形であれ今そこに在るのが、ファーストシングル『涙の銀座線』リリースから10年後の純烈の姿なのだ。それをありのまま残そうという発想は、ドキュメンタリーっぽい。  この大江戸温泉物語に西の聖地・箕面温泉スパーガーデンにおける無観客ライブ(7月収録)を加えたDVD『純烈のスーパー銭湯で逢いましょう♪』は、9月30日発売予定。これまでの映像作品とは味わいの違うものとなるに違いない。 「MCでもみんな同時に喋っちゃったりするかもしれない。それが懐かしく感じたりね。だから、もう一回やり直しなんですよ、純烈も。僕は今、完全に『涙の銀座線』モードになっています。今まで築き上げてきたものに乗っかる方が足かせになるんだと思う。今までをなぞろうとしちゃダメ。安心したくて自分たちに寄せるってなりがちなんだけど、そうじゃないよなって。なぞろうとする自分との格闘ですよ」  これまで通用した常識や方法論が成り立たない時代を生き抜くために、酒井は純烈として築いてきたものを頭の中でリセットし、直感を頼りに作り直すつもりで無観客ライブへと臨んだ。セットリストは決めたものの、1曲目を終えたあとのMCをどう回していくかは出たとこ勝負。  ライブ感が損なわれるからキッチリとは作り込まず、メンバー同士の呼吸でやってきた純烈だ。どうなるかわからないと不安になるがあまり慣れぬことに手を出してしまうのはよくないと、寸前で酒井は踏みとどまった。  誰もいない客席でエア握手をするラウンドはやるつもりでいたが、自分のイメージにハマらなかったら急に別のことを始めるかもしれない。無観客ライブであるがゆえに、オーディエンスが目の前へいる時以上に“ナマモノ”となる。
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大挙してつめかけたマスコミの前で、普段通りに汗を流す姿を見せる
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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