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働きアリの生態はサラリーマン社会に酷似していた。超絶ブラック企業の種も存在

働きアリごとに異なる働き方

 高度に進化したとはいえ、働きアリにしてみたら飲まず食わずで働きっぱなしの短い人生。なんともブラック。つらい。ハキリアリの働きアリが気の毒すぎる……。 「その一方で、同じキノコを育てるアリでも、『ムカシキノコアリ』と呼んでいる起源に近いキノコアリは、3割の働きアリが働きません。巣は30~50個体位の規模でキノコ畑も小さいのですが、3割がサボっていても、ちゃんと畑を維持することができているんです。寿命も女王アリと働きアリでさほど大きくは変わらない。同じ系統のアリでもずいぶん、違うでしょ」  ホント、「働きアリ」と一口に言っても、いろいろなのだ。 「ほかにも、『サムライアリ』は近くのクロヤマアリの巣から幼虫や蛹を奪って、自分たちの巣にもち帰り、育ったクロヤマアリを奴隷のように使って労働の一切をさせます。女王アリや幼虫のお世話だけでなく、自分たちのエサもクロヤマアリから口移しでもらい、サムライアリは何もしません。唯一の労働が盗みと、そのための偵察。そんな、フリーライドするアリもいるんですよ」 ・専門人材によって生産性を向上させ、巨大な組織を作り上げるけれど、過重労働&早死のハキリアリ。 ・3割がぼんやりしながら、まぁ、みんな平等にそこそこ働いて、こじんまりとしたそこそこな社会を作るムカシキノコアリ。 ・はたまた、労働らしい労働はいっさいせず、他者から奪うことで生きている超フリーライダーのサムライアリ。  どれも、見回せばよくあるサラリーマンの社会。果たして、どの社会が“幸せ”なのだろうか? どれが自分にとって理想的な働き方だろうか? 「重要なのは、ムカシキノコアリで7000万年、ハキリアリで5000万年、このスタイルで生き残っているということです。多様な生き方が許容されているということこそ、アリから学ぶべきことだと思います」
ハキリアリの女王アリ

ハキリアリの女王アリ

ハキリアリの行進5

長い列を作って行進しているハキリアリ

 確かに、アリの世界のように「いろいろな働き方」が認められるのがいちばんなのかも。  かくも多様なアリの社会だが、どのアリでも共通しているのが、「働きアリはすべてメス」だということ。なんでも、オスは生まれてきたら、働きアリにつつかれたり、ときに翅をちぎられたり、いじめられながらもお世話をしてもらい、交尾のための外に飛び立ち、死んでいくのだそう……。  これまたつらい。やっぱり、アリと人間の社会はどこか似ているのかもしれない。 村上貴弘(むらかみ・たかひろ) 九州大学持続可能な社会あのための決断科学センター准教授。 1971年、神奈川県生まれ。研究テーマは菌食アリの行動生態、社会性生物の社会進化など。ハキリアリの農業の進化や音声コミュニケーションのほか、ヒアリについても研究。 NHK Eテレ『又吉直樹のヘウレーカ』ほかメディア出演も多い。著書に『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社)など。 @Fungus_grower
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アリ語で寝言を言いました

熱帯の森を這いずり回り60回以上ヒアリに刺されまくった「アリ先生」による驚愕のアリの世界!一生巣の“扉”役、一生天井からぶら下がっている“貯蓄”役など究極の役割分担社会に進化した。
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