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「書く資格」――『すべて忘れてしまうから』書評・酒井若菜

やはり「書く資格」を持っているのは彼なのだろう

   作家は、小説でもエッセイでも、フィクションを描くものである。私自身、エッセイを書くときは、フィクション性を最優先している。不満だが、認めなくてはならない。私たちは、作家として同類なのだということを。つまり私の燃え殻さんに対する感情は、同族嫌悪だ。もちろん、私は燃え殻さんより記憶に忠実だし、自分を棚に上げっぱなしにはしていないつもりだ。何せ私の本業は俳優である。言い換えれば、言葉を記憶するプロである。正確な記憶をどこまでフィクションとして培養できるか。その作業はとても苦しいのだが、その点、燃え殻さんはそもそもフィクションから始めている。その突き抜けかたを見ていると、やはり「書く資格」を持っているのは彼なのだろうと思う。  燃え殻さん。遠い将来、君はこの本を神保町で見つけることになるだろう。何年先になるかは分からないけど、私はその夢を叶えてほしいと思っている。いつの日か、この本を見つけた暁には、その「ほんとう」だけは、正確に記憶してほしい。それだけでいい。君はどうせ、他のことはきっと、すべて忘れてしまうから。 酒井若菜酒井若菜 80年生まれ。女優として数多くの作品に出演するとともに、文筆業でもその才能を発揮する。最近の出演作に『絶メシロード』(テレビ東京系)など。ウェブマガジン『marble』の編集長を務める
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燃え殻『すべて忘れてしまうから』

ベストセラー作家・燃え殻による、待望の第2作!
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