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「大工の源さん」の出玉スピードは世界の時間を歪めた。そして僕はバクチの罠に…

脳汁がこぼれる大工の源さん

 千葉のパチンコ屋さんは店内に余裕があった。通路幅も広く、人もまばら。無駄に豪華なトイレと喫煙スペース、そして至る所に設置してある自動販売機。 「これこれ!」  都外のパチンコ屋さんはまさに「ゆっくり遊んでくださいね」と言わんばかりに居心地のいい空間だ。缶コーヒーを買って喫煙スペースで一服。最高の暇つぶしのための大事なルーティンだ。こんなに好き勝手やっても誰にも怒られない。こういう小さな自由に「子供を卒業した」実感を得る。だからと言って大人にもなってはいないが。  店内を練り歩く。無数にある海物語のゾーンを抜けると北斗無双と花の慶次、さらに奥に行くと新台コーナーがあった。  この頃は金欠も限度を迎えていて、日雇いの金でまず滞納した家賃を用意しなければならず、二週間ほどパチンコを打てていなかったので、5,000円をもらって久しぶりに浮ついていた。久しぶりのパチンコ、初めての店、初めての土地…一つも根拠はないが、なんとなく勝てそうなオカルトの条件は揃っていた。  この時に出会った新台が「大工の源さん 超韋駄天」だ。  僕がパチンコを打ち始めたのは7年前で、大工の源さんシリーズについての知見はほとんどなかったが、新台にも関わらず誰も座っていないからゆっくり打てるという理由で座った。どんな仕様でどんな演出で、何がアツいのかもわからない。「わけがわからないけど、なぜか勝てた」が好きな僕は、よくこうして無防備に知らない台を打つ。  知らないキャラが知らない敵と戦っている。1,000円、2,000円と減っていったが、降って湧いた金なので焦りもなかった。ただ射幸心を煽る光を目に浴びながらボケッと4円玉がのたうちまわるのを眺める。なんか当たらないかな。  4,000円使ったところで当たった。どんな演出で当たったのかも覚えていない。ただのまぐれなのに「やっぱりな」と思ったことだけは覚えている。  さて、当たり中はどれだけ面白いかな? と美術品を見る中尾彬のようになっていた僕は、数分後に目を覚ます。  通常、パチンコで当たると、玉が減らないまま100回転近い一定回数の抽選をし、次の当たりを引く。当たれば1,000発近い玉が出て、また玉の減らない抽選期間に突入する。この繰り返しをどれだけ続けられるかが連チャンの鍵で、当たりは一回一回やってくる。  ところがこの「大工の源さん 超韋駄天」はたった3秒以内で次の当たりの抽選を終えてしまうため、まるで延々と玉がで続けているかのような錯覚に囚われるのだ。  3秒。当たりを消化し終わって余韻に浸るのも束の間、ふと画面に目をやると次の当たりが始まっている。普通のパチンコがライスおかわりし放題システムだとすると、大工の源さんのおかわりスピードは、わんこそばのそれに近い。碗を平らげて3秒以内に次のそばが手元に来る。その間に「美味しかったね」という時間は無い。当たりの興奮が落ち着く間もなく次の当たりがやってくる。僕の頭蓋骨は脳汁で溢れ、こぼれた。
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