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1曲で9人を演じ分ける。黒木渚初の楽曲提供で、こゑだが見せた脅威の歌唱力と表現への貪欲さ

自分で歌う曲と、他人に提供する曲の違い

「こゑだ「V.I.P.」Studio Session Teaser」。新曲「V.I.P.」を初お披露目したときの映像 ――歌詞の話が出たので、今回の「V.I.P.」の内容について見ていきたいのですが、非常にBPMも速く恋する女のコの気持ちを描いている。一聴するとアップテンポな恋愛ソングですが、ちょいちょい黒木渚流の表現がいいひっかかりを残す曲になっています。まず、サビの「グラスに注がれた私(あなた)の夕方を」という歌詞はまさに黒木渚節というか、本来はまったく異なる概念の言葉をつなぎ合わせ、新たなイメージを生み出す文学的な広がりがありますね。それで、初めて聞いたときに、なぜか全然違う傾向のはずの黒木さんの楽曲「君が私をダメにする」を思い出して。そのことについては黒木さんと2人で話したんですけど。ドラムが柏倉隆史(ex.toe / the HIATUS)さん、ギターがまこっちゃん(井手上誠)といういわば「黒木チーム」のメンバーがいるからか、とか。 渚:でも、アップテンポで恋愛ソング、しかも主人公の女性が相手に夢中という点が共通しているね、という話にはなりましたね。 ――ただ、今までの黒木渚の楽曲と大きく異なるのがコール・アンド・レスポンスのところ。もちろん、黒木さんのこれまでの楽曲でもコール・アンド・レスポンスはあるんだけど、ここまで「ライブで盛り上がる感じが丸見え」なものはなかった。やはり人に提供するとなると自分の作品とはちょっと違うのかな、と。とくにこのコール・アンド・レスポンスの最後「イエスもブッダもV.I.P.!!」は笑えるし、「イエス」「ブッダ」のところをイベントの主催者にしたり、ご当地の何かにしたりといろいろと使えますね。 こゑだ:確かに! 渚:うんうん。そこら辺は意識的に書いてます。地方をツアーで回るときとかも使えますよね。大阪だったら「お好み焼き」「タコ焼き」にしたり……ちょっとこれだと音と文字数が合ってないか(笑)。 ――ライブで盛り上がるのは間違いないですね。 渚:ただ、それ以前に曲の全体的な話をすると、こゑだちゃんと私はシンガーとして精神的な、歌に対する意識とかはすごく近いと思うけど、やっぱ、年齢とかが全然違っていて。で、この曲を書いたときに、やっぱり歌うにふさわしい「女の階段」が出てくるんだなという発見もあって。確かに、私のほうが年上っていうのもあるし、ちょっとダークなイメージが強すぎる気がしていて。で、こゑだちゃんは陰も持っているんだけど、すごくキュートでコケティッシュな部分も持っているんです。その両極を持っているのがすごい魅力だと思っていて、「V.I.P.」ではちょっと小悪魔っぽくてセクシーで、みんなを天然で魅了しちゃうみたいな部分を爆発させようと思って。 こゑだ:(笑)

黒木渚のアーティスト写真。2019年にアルバム『檸檬の棘』で音楽活動を再開したときのビジュアル

――なるほど。演劇や映画だと「当て書き」という書き方があるじゃないですか。今回はこゑださんに提供する前提だから、ここに書かれている女のコはこゑださんをイメージして書いたのか、飽くまでもこういう歌をこゑださんが歌ったら今みたいな話になるだろうな、とイメージして書いたのか? 渚:こゑだちゃんは何にでもなれるんですよ、歌の中だと。それをずっと感じていて。ライブを観ていてもその歌に憑依できるタイプだから、ちゃんと曲として完成したものを献上すれば(笑)、絶対に成功するというのはわかっていて。こゑだちゃんをモデルにしたというよりは、こゑだちゃんが憑依できるキャラのうちの一人をコントローラーで操ったみたいな感覚かな。 こゑだ:私が一番大事にしていることは、生の表現を詰め込むことなんです。もともとピッチ補正など歌に対する機械的な補正を加えてほしくないっていうのがずーっとあって、それを今までずっと守ってきていて。CDなんだけど、音源とライブはまた違うんだけど、音源に詰め込む表現力みたいなところは一番重要視しています。例えば悲しい表現をするときはすごく悲しい表情で歌うとか、楽しいときは笑顔で歌うとか、そういう表現もかなり重要だなと思って、そこを一番意識してやっているので。なので、物語の背景とか情景とか、どういう気持ちで立ち振る舞えばいいのかっていうのはかなり重要だったので、渚さんにいろいろ聞きました(笑)。
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8人のチアリーディング部の女性の設定をつくり、21秒に凝縮
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