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<純烈物語>ファンの聖地の焼き肉店の女将が明かす、純烈の唄が心に染みる理由<第62回>

女性カメラマンという夢を抱くも…

 嫌々通った3年間の高校生活を終えると、本格的に花嫁修業に励めと茶道や華道を教わる学校へいくよう親から命じられた。さすがに時子、ブチ切れですよ。 「なんで親が決めるの!? あたしの人生はあたしのじゃん!」  入学式当日、積もりに積もったうっ憤を口にしいきたくないとダダをこねた。あまりの剣幕に少しは考え直したのか「そんなに嫌なら自分で断れ」と言われ、迷うことなくその日の朝に“退学”を申し入れた。  結婚させられるなどまっぴら御免と思った時子は、女一人で生きていくにはどうしたらいいかを考えた。なりたい職業は保育士か女性カメラマン。 「姉が結婚して東京に住んでいたんだけど、その隣に住んでいる方が『週刊平凡』で表紙を担当する橋本さんというカメラマンだったの。姉の子どもが生まれた時に写真を撮りにきてくれて、普通に撮るんじゃなく周りをゴロゴロ転がりながら位置を変えて何度もシャッターを押す姿にあこがれちゃったのね。  橋本さんを見る前からなりたいとは思っていたこともあって親に言ったんだけど、当然猛反対。それでも諦めきれなくて1週間後に平凡の編集部まで『橋本さんはいますか?』って訪ねていったの。そうしたら、ちょうどいてくれて。男並みの力持ちでなければダメ、女だと思っちゃダメ、男のつきあいでカメラ担いで飲み回れなければダメ。それらをすべて弱音吐かずにクリアしなければなれないって言われたわ」  やれる自信はあった。しかしもう一つ、最後に出された条件がネックとなった。 「親の許可がなければ認められない」  高校を卒業した直後の十代である。橋本さんの言うことはもっともだった。  家の事情を包み隠さず話すと、ならば写真学校があるからそこで必要な知識を積みなさいとアドバイスを受ける。ただ、そこで理解を示すような両親ではなかった。頭ごなしに大反対され、早く家を出て独り立ちしたいとの思いが強まっていった。  とはいうものの、先立つものがなければ一人暮らしはできない。花嫁修業も働きもせずにいる娘を見兼ねてか、母が就職先を見つけてきた。  そこは寮生活だったためとりあえず実家から脱出できる。父はそれさえも反対したが、最後は「勝手にしろ!」と怒鳴り、席を立った。入ったからには夢も捨てて一生ここで働こうと覚悟を決めていたのだが、仕事柄腰を痛めてしまい1ヵ月間寝込んだ。  そんな時、父から電話がありやさしい声で「帰ってこい」と言われ、2年8ヵ月で実家へ戻る。ここで時子は、今までに味わったことのない苦しみに見舞われる。 「何もやらないで家にいると、世の中から置いてきぼりにされた感じがして。仕事をしないことって、こんなに辛いのかと。これは今にも通じている。仕事っていうのは、何がなんでもやっている方がしあわせなんだという経験ができたのは大きかった」

紹介された男は二日酔いで現れた

 腰痛を治したあと、薬品関係の会社へ「運よく」入れた。そこでは薬の勉強だけでなく、接客もイチから教わることができた。言うまでもなくそれは現在、焼き肉店でも役に立っている。  この会社には3年間勤務。高度成長期も10年以上続き、日本全体が昇り調子で何をやっても生きていけるような活気に満ちていた。だからこそ、仕事をしなければ周りの輝いている人たちに置いていかれてしまう。そんな思いが、彼女を働き蜂とさせた。  ずっと働くつもりでいたが、年を重ねるといよいよもって親が結婚しろとうるさくなり、ドラマに出てくるような世話焼きおばさんも登場。仕方がないので時子は条件を提示する。 「なんにもない人、ただしこれから何かをやろうとしている人。お金はないけど努力して底辺からピラミッドを築き上げていく精神の人じゃないと結婚しないって。親が『資本主義の世の中なんだから金がないのはダメだ』って言いながら、条件に見合う人を連れてきて。あたしはそんな人なんて絶対いないからと思って言ったのに、見つけてきちゃうんだもん」  その人物こそが現在の夫である章さん。のちにこの時の条件を本人に明かすと「ゼロだと何もできないから、イチはあった方がいいぞ」とドリー・ファンクJrばりの冷静沈着さで言われた。そしてその言葉の真実味を数年後、身をもって知ることとなる。  数日が経ち、街の喫茶店で対面する。そこへ現れたのは、二日酔いでヘロヘロになった章さん。ヒョロヒョロで青っちょろいその男に、どうしたのかと聞くと……。 「旦那はね、あたしが小学生の時に3年間教わった先生の親戚だったのよ! その先生があたしのことを知っているものだから『明日はトッコと会うんだから飲め』ってしこたま飲ませたんだって。でもあたしは、その話を聞いた瞬間、この人だったら大丈夫だって思った。  初対面の女性に二日酔いで会いにくるなんて? それがいいんじゃない。会うのに一杯ひっかけないと会えないような、カッコつけるんじゃなく純なところがよかったのよ。さんざん飲まされてもちゃんと来るのも誠実でしょ。あたしは初めて逢った時に、この人と結婚するんだろうなあって思えたの」  半年後、二人は籍を入れた――。
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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