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ジャパンカップで一攫千金を狙う借金500万円男、魂の全予想の軌跡

馬の買い目

 とりあえずジャパンカップの出走表をネットで見る。  そもそも僕は馬を信用していない。馬は人の期待なんて知らないし、勝てばいい飯が食えるのも知らない。というかいい飯を食ってるのかもわからない。より強い競走馬になるために、人で言うところのサラダチキンみたいなものばかり食わされているかもしれない。ジャパンカップで強い馬ばかりが参戦するからと言ってやる気が全開になるかどうかすら見えない。勝って数千万もらうのは全て人間だ。 「競馬はデータが全て」  競馬が強い人はみんなそう言う。きっとそうなのだろう。その馬が結果を出す為に一番馴染んだ状態にどれだけ近いか、体重の増減で走れなくなるか、何mが一番速く走れるか。突き詰めれば飯を食うサイクルや休息の期間もヒントになるだろう。だが僕はそこまでは見ない。わからないから。  今回の予想のテーマはひとえに「他人の声に耳を貸さない」。これは買い方に関しても、だ。  丁半博打のバカラにおいて、同じ結果のテーブルに座って同じ方に賭け続けたとしても、終わってみれば大勝ちしている人と、なぜか負けている人がいる。勝率が全く同じなのに結果が変わるのは、勝負所の違いだ。大きく張ったタイミングで勝ち、小さく張ったタイミングで負ける。どれだけ勝ちやすいテーブルだろと負ける人間は負ける。そして令和の僕は上手な他人の予想に乗っかっても勝てない。買い方が下手だろうと自分で全部決めるのが僕にとっての「テーブルチェンジ」だ。予想屋が悪いんじゃない。勝率の高いテーブルで、たまたま負ける時に賭けてしまっていただけだ。まずは「他人の予想に乗っかる」というギャンブルをやめる。  データを見る。人気3頭が圧倒的に強い。過去レースの結果を見てもそれは明らかだった。僕はまず、それぞれの馬が良い結果を出した時とどれだけ離れているかを見た。  アーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクト、強すぎる。圧倒的だ。パッと見では結果を出さない未来が見えない。後ろ2頭に関しては1着しかない。そしてアーモンドアイが1着を逃した数レースは、過去僕が全て勝っているレースだった。  去年の有馬記念、みんな直前まで、 「アーモンドアイはさすがに切れない」  とか言っていたのに、9着で終わった瞬間に、 「こういう理由でダメだったな」  と、さも最初から知っていた風に語り出すのが許せなかった。なけなしの10万近くを全部失った僕は、銀座のWINSで灰になったのを覚えている。帰り道にリンガーハットに寄って、かた焼きそばを食べた味も。負けた時の記憶はクレンザーをかけて金タワシで擦っても落ちない。  この3頭はみんな主人公だが、全員が1着になるわけではない。必ず2頭には泥がつく。そう考えた時、その2頭はボロボロに負けるかもしれない。初めての挫折の味は、吐き出してしまうほどに辛い。負けを確信した時、2着や3着にしがみつくほどの胆力を持っているだろうか。  否、持っていない。コントレイルとデアリングタクトは特に、だ。まだ若すぎる。天才として生まれ、天才として育てられ、天才として結果を残し続けてきた。追い抜けないと悟った時、最悪馬場で立ち止まってしまうかもしれない。僕はただ一度の受験失敗でここまで転がり落ちてしまった。

タイムかオッズかオカルトか

 次に2,400mでのタイムを見た。僕は競馬に関して賭けはしてるが知識は無いので、2,400mなら2,400mの距離を走った馬のタイムしか見ないことにした。  タイムが速かったのはアーモンドアイ・キセキ・ミッキースワローだった。彼らは過去に良馬場で2分21秒前後、他の馬よりも3秒くらい速く走り切った。またもアーモンドアイ。ここにもいる。去年の有馬記念を覚えている僕に襲いかかる最強馬・アーモンドアイ。素人が買う馬だと言われようと、僕はきっとこの馬を買うのだろう。  キセキ・ミッキースワローに関しては、タイムが速いが1着の数が最強3馬に及ばない。もしかしたら本番に弱いのかもしれない。過去の記録は最速だけど繊細な彼らに、なんとなく江戸末期の自警団である新撰組にいた病弱の最強剣士、沖田総司が重なる。彼らの「1発」は果たしてここなのだろか。  そして、速くも繊細な彼らを過去に打ち破っている者たちもいる。キセキはグローリーヴェイズに、ミッキースワローはクレッシェンドラヴに負けている。彼らに対して萎縮してしまうかもしれない。もうここ数時間でできた偏見だが、キセキとミッキースワローは繊細なんだ。一度負けた相手にもう一度剣を向ける強さを持ってはいない。スキルがあっても心は弱い。  グローリーヴェイズとクレッシェンドラヴには「圧」がある。  こうしてジャパンカップについて悶々と二次創作のようなものを繰り広げていたが、楽しくても結局「誰が1着になるか」の予想は中々つかない。そんな中、一頭の馬のデータを見て二次創作脳は限界を迎えた。  カレンブーケドール。  もうアニメを見るようにジャパンカップのデータを見ていた僕は、この馬の過去のデータを見て「間違いなく強い」と思った。  前走のほとんどが2着。いぶし銀の言葉の意味は定かではないが、きっとカレンブーケドールの過去レースの結果から生まれた言葉だろう。  カレンブーケドールには「不勝不敗」という能力があり、どの馬にも1着争いで勝てないが、賞金争いで負けることはない。それはジャパンカップでも同じだ。 「誰が1着になるか」はわからないが、「誰が3着以内に入るか」という点では圧倒的な信頼感がある。前に馬がいることに慣れ、粛々と賞金を稼ぐ。この馬はきっと3着以内になら入るかもしれない。なんてクールな馬なんだ。  他にも海外から来た馬、ウェイトゥパリスや最年長の7歳馬、ヨシオも出てくる。このレースは面白い。いや、本当は全てのレースが面白かったのかもしれない。僕はこれまで競馬を勘違いしていた。  ふと、突然の着信に目が覚める。 「プロミス2」  忌々しい消費者金融が、2つ目の電話番号でかけてきたものを登録していた。ここ最近ずっと日雇い労働をしていて、それでも足りないのに電話をかけてくる嫌なヤツだ。いつか何かでドカンと金が入ったら一括で返してやるというのに。  いや、待てよ……。 「10番、パフォーマプロミス……?」  運命が扉を叩く音がした。もうそこに勝つためのデータはない。覚えておいてほしい。競馬はただのギャンブルではない。  競馬は、“心”だ。 ※この記事が上がる頃には結果が出ているので、この想いはきっともうありません。 〈文/犬〉
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩
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