恋愛・結婚

僕と僕の係長/でこ彦<第4話>「30歳で生まれて初めての片思いをしている」

―[僕と僕の係長]―
 青年は恋をした。相手は職場の係長。妻がいて、子どももいる。勢いあまってゲイであると告白しても、係長は「おや、そう」と驚きながらも受け止めてくれた。そればかりか、「お前が女だったら」とも言ってくれた。  青年は恋をした。でも相手はみんなの係長。  僕だけの係長であってほしい。そう願う青年の、実話に基づく純愛物語、ここに開幕。

【第4話】「30歳で生まれて初めての片思いをしている」

 僕は僕の係長が好きだ。窓を開けてそう叫びたい。外に出て通行人を捕まえてひとりひとりに教えてあげたい。世界中の人に知ってもらいたい。しかし係長本人にだけは知られたくない。  恋愛感情を抱いていると知ったら係長はどう思うだろうか。もしバレてしまったら何と言われるのか不安で尻込みしてしまう。  僕は漫画『うる星やつら』のラムちゃんになりたい。諸星あたるに浮気されても冷たくされても「ダーリン、ダーリン」とあとを付いてまわるラムちゃんに。あるいはアニメ『ポケットモンスター』のピカチュウに。体中に傷を負っても「いけ!」とサトシに命じられれば文句も言わず戦うその姿には心を打たれる。  しかし僕はできない。メールを無視されればしっかり傷付くし、目が合った瞬間に逃げられると仕事を休むほど落ち込んでしまう。こんなことではいけない。怪我をしても翌週の放送で完治しているアニメの登場人物のように、僕も切り替えて「係長、係長」と追いかけるべきだ。なのに怖気付いてしまう。人間だからだ。  係長には嫌われたくない。あたるのように最終回になっても「好きだ」と言ってくれなくていい。サトシのように四六時中、肩に乗せてくれなくてもいい。心の中で好きになってもらえたらそれでいい。  しかし、それが最も難しい。係長はあたるでもサトシでもなければ、僕のために作られた登場人物でもなく、人間だからだ。  30歳にしてようやく、恋とは人と人のあいだに起こるものだと知った。生まれて初めての片思いをしている。
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これまでの恋は全てひとりで行ってきた
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