恋愛・結婚

僕と僕の係長/でこ彦<第6話>係長の「頑張れよ」は遠く先まで照らす灯のように頼もしい

―[僕と僕の係長]―
 青年は恋をした。相手は職場の係長。妻がいて、子どももいる。  勢いあまってゲイであると告白しても、係長は「おや、そう」と驚きながらも受け止めてくれた。  そればかりか、「お前が女だったら」とも言ってくれた。  青年は恋をした。でも相手はみんなの係長。  僕だけの係長であってほしい。  そう願う青年の、実話に基づく純愛物語、ここに開幕。

【第6話】係長の「頑張れよ」は遠く先まで照らす灯のように頼もしい

「車を出すから映画館に行こう」や「お前んちで鍋パーティーしよう」など係長が提案してくることがある。それらは大抵お酒で気分が良くなったときの思いつきで、翌朝には忘れ去られることとなる。改めて「行きましょう」と蒸し返しても、「するわけないだろ」とあしらわれるのが常だった。  それでも僕は満足だった。約束を交わした瞬間だけは係長の未来に僕が確実に存在していることになる。たとえ数日先の話であろうと、眠ったら消える未来であろうと、僕の係長と共有できるものがあることは希望となった。  2年前の12月には「仙台で一緒に遊ぼう」と誘われた。年末年始を妻の実家がある仙台で過ごすことになっているので、1日くらいは付き合えるということだった。これもまたいつもの儚い提案かと思いきや、別の日には「この日に大学時代の友人と会うけどお前も来るか」と具体的な日時の提示があった。なので行くことにした。  仙台駅から係長がいる居酒屋へ直行すると、店に入るなり僕を指差して「こいつ背番号18に似てるだろ」と隣に座る友人と笑った。背番号18が誰のことなのか知らない。  僕はいつもお前呼ばわりだというのに、その友人のことは「栄介くん」と下の名前で呼んだ。
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栄介くんはじろりと不審げに僕を見た
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