恋愛・結婚

僕と僕の係長/でこ彦<第7話>彼らは女性が好きで、僕は男性が好き

―[僕と僕の係長]―
 青年は恋をした。相手は職場の係長。妻がいて、子どももいる。  勢いあまってゲイであると告白しても、係長は「おや、そう」と驚きながらも受け止めてくれた。  そればかりか、「お前が女だったら」とも言ってくれた。  青年は恋をした。でも相手はみんなの係長。  僕だけの係長であってほしい。  そう願う青年の、実話に基づく純愛物語、ここに開幕。

【第7話】彼らは女性が好きで、僕は男性が好き

 僕の係長の横に並んで歩くとき、左側を歩くことが多い。  飲食店でもその位置で座る。立ち位置が決まっている漫才師のように、その並びが体になじんでいるので、反対に立つと強烈な違和感を覚える。係長も嫌なのか「こっち側にきて」と正しい位置に移動させる。  僕は左利きなので、この並びで食べると手がぶつからない。それは本来は利点であるはずだが、欠点だと感じる。ぶつかるほうが楽しいに決まっている。  森永「ダース」やブルボン「アルフォート」を食べるたびに自分が左利きであることを意識する。箱はまだしも、お菓子の内袋の開封口が右側にしかついていないからである。左手で開けようとすると裏返ってチョコレートがばらばらと落ちてしまう。  今さら僕が言うまでもないが、この世には右利き優位のものが多い。  駅の改札が言及されることが多いものの、ICカードをかざすだけなので不便を感じることは少なくなった。それよりも定期券を入れているスーツの胸ポケットである。左胸の位置は左手で出し入れしようとすると腕を無理に曲げなくてはならない。10年近くスーツを着ているのに先日初めて気が付いた。見過ごしている「右利き用」はまだあるはずだ。   ところが、こうした発見は不満に感じない。サイゼリヤの間違い探しを誰よりも早く見つけられたときのようでむしろ喜ばしい。とはいえ楽しめるのは最近になってからで、中学生のときは世界に拒絶されている感覚を抱いていた。  数学のテストが嫌いだった。苦手教科だったこともあるが、左利きには不便なのだ。A3用紙の左半分に図形や問題文があり、右側に回答欄がある。これだと問題文を読みながら計算式を書くことができない。式を書く自分の左腕が交差して邪魔になった。  教室の窓も左側にあるせいで、手元の影がみんなとは反対側にできた。腕を回り込ますようにせねばならず、ひとりだけ不格好な姿勢を取っていた。ふと周りを見回しては、僕はこの教室における間違い探しのイラストのようだと悲観した。
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もうひとつの「間違い」である「ゲイかもしれない」という点
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