恋愛・結婚

僕と僕の係長/でこ彦<第8話>「男らしくない」というだけでその人を「仲間かもしれない」と期待した

―[僕と僕の係長]―
 青年は恋をした。相手は職場の係長。妻がいて、子どももいる。  勢いあまってゲイであると告白しても、係長は「おや、そう」と驚きながらも受け止めてくれた。  そればかりか、「お前が女だったら」とも言ってくれた。  青年は恋をした。でも相手はみんなの係長。  僕だけの係長であってほしい。  そう願う青年の、実話に基づく純愛物語、ここに開幕。

【第8話】「男らしくない」というだけでその人を「仲間かもしれない」と期待した

 僕の係長には性風俗店へ行ってもらいたくない。理由はただひとつ、そこで見せる表情を僕が目撃できないからだ。「既婚者なのに」という引っかかりは問題にはならない。僕の前で絶対に見せない笑い方や話し声や肉体がそこに存在していることが耐えられない。係長の喜怒哀楽は全て僕に向けられたい。どこまでもついて回る影のように、係長の一挙手一投足に僕は寄り添いたい。顔も名前も知らない相手の女性に激しく嫉妬してしまう。黙って行かれるくらいなら、同席させてもらえた方が気持ちは楽になるだろう。  同じ理由で、係長の妻に対してもねたましく思うことがある。僕は係長がどんなパジャマを着て寝るのか知らない。何時に起きて、何を食べるのかを知らない。  係長に直接尋ねても、「やだよ。お前とは家の話はせん」と拒絶されてしまう。  係長と飲んでいるとき、居酒屋の料理と僕とを写真に撮って、 「律(りつ)と飲んでから帰ります」  と、妻にメッセージを送ったことがあった。  浅ましい優越感が胸に広がるのを感じた。陣取り合戦に勝利したような心地だ。係長の1日を表す円グラフにおいて僕の割合が増えた喜びでもあるが、妻の認識に僕が割り込んでいった喜びでもある。反射的にそう考えてしまったが、我々は敵同士ではない。 「返信が来た。なんじゃこりゃ」と言って見せてもらった画面には「優しくしてあげてね」と書いてあった。妻には僕の気持ちがバレているのだろうか。 「そうだ、お前だけの写真も撮らせて」  係長がスマホをこちらに向けるので照れながらポーズをとっていると、 「勘違いすんなよ、今度風俗行くときのアリバイ工作に使うの」  と言い放った。「がーん」と声に出してみせたものの、ついにんまりと笑ってしまう。このいたずらを企むような表情は僕にしか見せないに違いない。
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マイケル・ジャクソンに連れ去られる場面を想像した
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