「ひとつ言えるのはリーダーが太ることに対し本気だということ」
「本当のところはただの不摂生なのかもしれないけど、ひとつ言えるのはリーダーが太ることに対し本気だってことですよね。それで笑いがとれるのであれば、そこになんのためらいもない。MCで何百回と『俺は本気で痩せる』と言っても、逆に『俺は計算したデブなんや』と言ってもどちらでもネタになる」
以前、後上が誉めているんだかなんだかわからない評価をしていた。じっさい、カッコよさがウリの戦隊ものだからこそ、変身前とのギャップが大きいほどより際立つ。
加えて純烈の場合、イケメン若手俳優ではなくおじさんたちが演じる点で通常の作品とは違う味わいが出る。今振り返ると、半年前にその伏線があった。
昨年6月23日の東京お台場 大江戸温泉物語におけるDVD収録用無観客ライブ後の囲み取材に応じたさい、代表質問を担当した人物が仰々しいほどの飛沫対策姿であるのを拾って「ショッカーみたいなカッコしやがって。仮面ライダー、久しぶりに変身するぞ!」と酒井が身構えた。そこへ絶妙な間合いで小田井が「変身するのはいいんやけど、勝てる気が全然しないんですよ」とオチをつけた。
強がる酒井に対し、久々のライブを終え疲れきっている現実をありのまま口にする小田井という図式でまた笑わせたわけだが、この時点では「そうだよな、いくら元戦隊ヒーローといっても、トシもトシだからなあ」と誰もが思ったはず。しかし、5月には純烈ジャー製作に向けて動き始めていたのだから、それを前提としたやりとりだったことになる。
人生の年輪を重ねてきたからこそにじみ出る演技や表現の仕方、伝わるものもあるだろう。むしろ、そこが若い俳優による物語とは違った独自の味わいとなる。
「あばれはっちゃくのタイトルに“逆転!”と入っていたり、ガオブラックの口癖が『ネバギバだぜ』と諦めない姿勢を演じていたり。あこがれてこの世界に入ってきてやらせてもらった役をどっぷり一年間演じることで、そのいいところを自分のものにしちゃっているんだと思うんです。
自分と役柄がリンクしているからキャスティングされたのか、それとも役を演じたことでこうなったのかはわからないけど、ガオブラックでネバギバって言っていたなら純烈もネバギバだろって思って、10年以上やってきた。純烈ジャーでも諦めないことでやってこられたことを、表現できるんだと思います」(酒井)
作りはベタであっても、深いメッセージ性であったりメンバーたちの思いだったりが描かれた作品となるはず。公開されたあかつきには、そうしたところも見逃さず観賞していただきたい。
そんな変身にまつわるネタで楽しませた会見にて、ニュース的に食いつきがよかったのはやはり小田井が妻・LiLiCoの名を出したこと。映画コメンテーターとして『王様のブランチ』にレギュラー出演しているとあれば、そこに触れることを報道陣が求めるのは当然だ。
「王様のブランチの映画コーナーに出られるかなって、それが楽しみで。LiLiCoのインタビューも受けることになるか、期待しています。純烈としての10年は『夢は紅白! 親孝行!』を目標にやってきましたけど、今年はアカデミー賞……ぜひともレッドカーペットを歩きたいですね。作品は今まで見たことがないエンターテインメントになっているので、夢は大きくアカデミー賞を狙います」
夫が出演した作品を妻が批評したり、インタビュアーとして話を聞いたりというのも、二人でなければなかなか見られない。これはいずれかの媒体で、ぜひ企画してほしい。
「結成以来の夢でした。こういうことが起きるんやなあ」
会見で佛田洋監督が明かしたところによると「基本的にはコメディタッチの楽しい作品。純烈さんのミュージカルシーンも歌も笑いも感動もある」内容とのこと。コメディであるならば、なおさらLiLiCoの視点に着目してしまう。
2011年に開催された『したまちコメディ映画祭in台東』の前夜祭オールナイトイベント「がんばれ、アメコメ!! したコメ×アメコメ」に出演し、日本におけるアメコメの評価が低いことを憂い、その魅力を情熱的に語るLiLiCoの姿が今も目に焼きついている。そんな彼女に、コメディを演じる小田井はどういう姿に映るのか。
「戦隊ものは僕の原点。そこに戻ってこられたのは嬉しいです。昔は子どもたちのヒーロー、今はマダムのヒーローとして楽しんでいただいていますけど、いろんな世代に楽しんでいただきたいです」(白川)
「僕にとってヒーローに変身することができるのは、圧倒的に大きなトピック。スーパー戦闘という冠がついたヒーローになれるのが純烈らしいと思います。全国の温浴施設に純烈ジャーとしてポスターを貼っていただくのも、胸が躍ります」(後上)
マダムの存在を口にした白川と、純烈としての下積みを重ねてきた温浴施設との関係を昇華できる喜びを語った後上。いずれも酒井が掲げる「恩返し」に通ずるところだ。
純烈のネームバリューを使って、世話になった健康ランドや銭湯業界が盛り上がるよう、作品ポスターを館内に貼ってくれる施設を現在も募集。全国の温浴施設が続々と名乗りをあげている。あなたの町のお風呂屋さんでも純烈ジャーの雄姿が見られるかもしれない。
「結成以来の夢でした。こういうことが起きるんやなあ」
冒頭のひとことを求められた時、酒井はそうつぶやいた。デビューしたての頃は、頭の中で妄想が膨張しても持ち得る人脈を札として切れるほどの実力も実績もなかった。それが今なら「自分のワールドとして、人を大切にする世界になっているから満を持して切ることができる」。物事を成熟した形とするには、やはり育むための時間が必要なのだ。
撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。
Twitter@yaroutxt、
facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『
白と黒とハッピー~純烈物語』『
純烈物語 20-21』が発売
【特報!】『純烈物語20-21』2021年3月9日(火)発売決定!
2019年12月発刊『白と黒とハッピー~純烈物語』に続き、当連載が書籍化されます。コロナ禍に見舞われた中、純烈はどうやって2020年を止まることなく乗り越えてきたのか。離れていてもファンとともに現実と戦い続けた酒井一圭、白川裕二郎、小田井涼平、後上翔太の姿が500ページ以上にも及ぶ克明なノンフィクションとして描かれています。現在、鋭意製作中です。ご予約等は
https://www.amazon.co.jp/dp/459408768X