更新日:2021年02月19日 20:25
エンタメ

<純烈物語>静寂のなかの「視線のレイザービーム」。観客の強い思いを受け取って<第84回>

純烈@相模大野

<第84回>ライブにおける純烈とファンの信頼関係。そして終演後に向かった原点の場所

 昼と夜の部のインターバルは2時間弱。第2部のステージに上がった酒井一圭は「この間、俺らまったく会話しなかったな」と言ってまず笑いをとった。  第1部のラストで純烈がステージを続けていく中、こんな方法はどうか、こういうものが見たいというアイデアがあったらツイッターなりメッセージなりで伝えてくださいと呼びかけたのだが、どうやら一本も来なかったらしい。ただ、それも「ライブにいってきましたって出しづらいからなあ」と、現状と結びつけてファンの心情をくみ取る。  言葉による対話はなくとも、切り札であるラウンドができずとも、その中で純烈は心のキャッチボールをオーディエンスと展開。「客席へいけない分、長く感じたわ。幽体離脱していきたいな」とは、小田井涼平の言葉だ。  2本分のステージを見たが、誰一人として歓声を飛ばす観客はいなかった。笑うところは笑うが、それも節度をわきまえたリアクション。あとはひたすら拍手とペンライトで自分の気持ちを表現していた。  曲調に合わせて振っているようで、一本ごとの揺らぎに感情がこもっているように映った。嬉しさのあまりいつも以上の力が入った緑のペンライトがあれば、涙によって小刻みに震える赤い灯りもあった。  今回、有観客ライブを再開するにあたり純烈はファンに対し、いくつものお願いをした。一人でも守れない人がいたら、コンサートは成り立たない。  つまり「純烈のファンならば理解してくれる」と信頼していたことになる。これは一日や二日で結ばれる関係性ではない。

お客さんの視線のレイザービーム

「そっか! 言われてみればそうだよね。そこは勝手に信じている。疑ったことはないな、今まで。健康センターの時なんて場外戦みたいなものだったけど、お客さんが乱入したことはなかったし、おひねりを渡すためにステージに上がってきちゃう人はいたけど、それはそれで一つの見世物として面白いんであって。お客さんと一緒に連係プレーをしてしまうのが純烈なんだろうね。 純烈@相模大野1 大好きだからこそ静かに応援する。その視線の強さがすごかった。郷ひろみさんの唄じゃないけど、“視線のレイザービーム”。自分の心がすごく聞こえて見られる純烈ライブだったんじゃないかな。ライブって、聴く側も自分が出てきちゃうから心が叫びまくっているんだけど、一人ヘッドホンで聴いているようではなく隣を見ればみんな一緒に聴いている。これはこれで音楽体験として、新しいシーンと言えるのかもしれない」  声を出すことなくそれぞれの思いをにじませる情景を、酒井はそのようにとらえた。そして、この相模ライブが2021年のステージ上と客席の在り方になっていくとの手応えもつかめた。  終演後、ロビーで待ち構えると規制退場によって断続的に観客がホール内から出てきた。いずれも喜びに満ちたというより、思い思いに余韻を噛み締めている様子だった。 「もうね、昼の部で涙出ちゃったわよ! 夜は夜で楽しく見られた。久しぶりだったから、嬉しくてしょうがないわ。声は出せないけど、静かに見ましょうとみんなが心がけているのは素晴らしいことだと思うの。またスタートできたんだよね……明日はどうなるかわからない世の中で、今日という一日を楽しめることができたのは、本当によかったです」  会場とは目と鼻の先にある「焼肉八起」のおかみさんの姿も、当然のごとくそこにあった。有観客再開一発目が純烈の聖地からほど近いところというのも、鬼のように引きが強い。  ロビーで話を聞いていると、おかみさんと顔見知りのファンが一人またひとりと集まってきた。メンバーとだけでなく、こうした横のつながりにも飢えていたようだ。その輪の中から、こんな言葉も聞かれた。 「人の気持ちによってつながっていくのって、しっかりしたものだなと思いました」  直接的なふれあいが看過されないのだとしたら、人間は心でつながるしかない。それをライブで体感し、自分だけでなく多くの純子&烈男と共有できるのだから、純烈のコンサートは尊い空間と言える。  横浜から娘と一緒に来たというお母さんは、自粛に入る直前の2月にライブへいった以後、押さえていたチケットがキャンセルとなってしまった。「延期になる前に見にいけた私たちはまだよかったんだね」と親子で励ましながら、再会の日を待ち続けたという。 「私もそうでしたけど、娘もウルウルしていました。一日でも早く会いたいねってずっと話してきましたから。わーっ!と声を出したくなるのを我慢して、小さい声でわーっと言ったり、ささやくように口ずさんだり……ラウンドがないのは正直な気持ち、物足りないです。そこは本当ならしてほしいですけど、待つしかないですから。それでも今後、またライブにいきます」  歓びと葛藤、二つ我にあり。メンバーもファンも、同じ思いをこれからずっと抱いていく。それが、2021年の純烈とファンの物語――。
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そして聖地「相模健康センター」へ
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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【特報!】『純烈物語20-21』2021年3月9日(火)発売決定!
2019年12月発刊『白と黒とハッピー~純烈物語』に続き、当連載が書籍化されます。コロナ禍に見舞われた中、純烈はどうやって2020年を止まることなく乗り越えてきたのか。離れていてもファンとともに現実と戦い続けた酒井一圭、白川裕二郎、小田井涼平、後上翔太の姿が500ページ以上にも及ぶ克明なノンフィクションとして描かれています。現在、鋭意製作中です。ご予約等詳細は公式Twitter(@happy_junretsu)で追ってお知らせいたします。全国の純子&烈男の皆様、お楽しみに!(定価1818円+税10%)
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