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<純烈物語>御園座千穐楽で里見黄門様は「ペットボトル」と突然言った<第91回>

「ちょっといいですか、座長」ステージ上で突然酒井が切り出した

 第2部の歌謡ステージ「里見浩太朗×純烈大いに唄う!」では、ラストナンバーとして水戸黄門の主題歌『ああ人生に涙あり』を5人+ゲスト出演・小久保隼(舞台にも竹三役で出演)で合唱し、幕が閉じられた。千穐楽は、最後に居並びで出演者全員が登場。  最前の里見+純烈の中には主要キャストの野村将希、小川菜摘らが入り、2列目にベテラン、3列目に若手の役者が並ぶ。何人かが締めコメを出し、最後に三方へ礼をして終わるのだが、その前に酒井が「ちょっといいですか、座長。僕的にMVPは白井さんだと思うんです」と切り出し、後列から観客が見えるステージ前方へと呼び込んだ。  ヤクザの親分・鬼の吉兵衛役を務めた白井滋郎(70歳)は、1952年(昭和27年)に殺陣技術の向上・発展と継承を目的として東映京都撮影所で発足した「剣会」(つるぎかい)のメンバー。俳優活動とともに「形」を極める武道・形道の講士の資格を持ち、指導にあたっている。  天下の黄門様にも、いろいろな役をやって撮影場を駆けずり回っていた若き時代があった。ようやく主役を務められるようになった段階で「剣会にいって教えてもらってこい」と言われた。  つまり、剣会に「おまえも主役になったんだからな」と受け入れられるようになれば一人前というのが京都におけるしきたりだった。そんな剣術の達人集団の一人として、白井は里見とともに時代劇を作り続けてきた人物なのだ。

白井抜きにしてはなし得なかった舞台

「白井さんは、里見さんが『おい白井』と言ったら床にヒザをつくぐらいのノリでやってて、人もよくて礼儀も正しくて僕らのようなまだ時代劇の右も左もわからないようなデタラメな連中にもていねいなんですよ。小川菜摘さんとも絡むし僕らとも絡む、あの物語の中で一番動く役なんです。  僕、アレルギーで最初のうちは見学が多くて、客観的に見る中で立ち回りがすんなり決まらず難航したんです。そのたびに白井さんはいろんな人と絡んでいるから休まず常にいる。本番ギリギリまでよくしようとすればするほど、インストールしたものを一回捨ててもう一回インストールする。細かい微調整を高齢にもかかわらずやり続けていました」  確かに白井が演じる鬼の吉兵衛は、誰よりも出番が多かった。バイプレイヤーとしての演技だけでなく、全体を見てベターな形に持っていく役どころをそれほどのベテランがやっていたのは、酒井ならずとも驚きだ。  京都の昔気質の役者だけに会場入りも早く、楽屋では念仏のように自分のセリフを唱えていた。里見が御園座をあとにするところまでつき、その日ごとの挨拶も忘れない。  観客の目に届かぬ部分ながら、白井がやってきたことを抜きにして今回の舞台はなし得なかったと酒井は思った。だから、言わずにはいられなかった。 「ホンマは座長がMVPよ。だけど、それを置いた上での一人として紹介させてくれ。そのニュアンスは里見さんにも伝わっているんだけど、京都の序列でいったら考えられない紹介なんです。完全に格が決まっている世界ですから。白井さんも『そんな、恥ずかしいです』と一歩も前に出ようとしなかったんだけど、共演者たちはわかっているから、みんなで拍手して」
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バイプレーヤーの娘は客席で号泣
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