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<純烈物語>御園座千穐楽で里見黄門様は「ペットボトル」と突然言った<第91回>

御園座水戸黄門ポスター

<第91回>御園座千穐楽……黄門様の「ペットボトル」と報われたバイプレイヤーと娘の涙

 御園座三月特別公演『水戸黄門~春に咲く花』千穐楽を迎えた3月21日。緞帳の降りた観客の見えないステージ上は、開演5分前を過ぎても里見浩太朗以外の出演者たちが慌しく動き回っていた。  最終公演ということでいつも以上に緊張した……のではなく、里見黄門様との記念撮影大会が始まったのだ。全員が衣装姿でいるのはこのタイミング。22回分の舞台を積んできたとあり、幕が開く間際になってもみなリラックスし、ちゃんと演技をこなせるまでになっていた。 「里見さんは神経と体力使って長丁場やっているんで、いつでも写真を撮れるような気楽な世界ではないんです。でも、今日が最後だからということで里見さんも『もちろん』と応えてくれた形で。共演者でも、お客さんと同じなんですよ。そこは黄門様とぜひ撮りたいと思うもの。  厳格な序列が劇場にはあるけど里見さんはやさしく接してくださるし、スタッフさんも角がない円滑で平和な現場だった。座長としての安定感が現場の安定感にもなっていて、それで千穐楽までこられたというのがあった中での唯一の変化が、あの開演前の10分間ぐらいだったんだと思う」  そう振り返る酒井一圭と純烈のメンバー3人もいつもより早めにセッティングし、ご老公様の輪に入ったり、他の共演者との記念撮影に応じたりした。そして数分後には、何事もなかったかのように水戸黄門の世界の住人として舞台に立った。 千穐楽を無事終えた時、酒井は「しっかりと持ち続けてきた手綱を手放した感じ」と言った。それほどやるべきことを緻密に遂行する毎日であり、純烈のステージでは得意とするアドリブやノリをはさみ込む場とは違った。  自分たちが座長ならまだしも、里見浩太朗による水戸黄門の世界観を崩すことは求められない。酒井と白川裕二郎は忠実なまでに助さん・格さんで、小田井涼平は悪代官の父への葛藤に苦悩する沼田広之進そのものであり、後上翔太はヒロイン・おみつ(古畑奈和)の彼氏にふさわしい爽やかな村人・清太に徹した。

黄門様がヘソを曲げるシーンで里見浩太朗が……

 そんな中、最終公演でこんなシーンがあった。旅の道中にあるご老公一行。道筋を巡り、助さんと格さんが口論を始めるのだが、そこで年寄り扱いされた黄門様が「あなたたち、言いたい放題言って私は老人ですか?」とヘソを曲げてしまう。  気まずくなった助さんが「おっ、こんなところに茶屋がございます。ご隠居、一休みしていきましょうよ」と話を変えようとするも、黄門様は「疲れてません!」と意地を張る。このやりとりの時点で、客席では笑いが起きているのだが……。 「そのあと、格さんが『ご隠居、ノドが乾いておりませぬか?』と言いながら竹筒を取り出すんですけど、最終日だけ里見さんが『ちゃんとペットボトルを持っています!』って言ったんです。あの瞬間、見事にドッカーン!ですよ。普段は、そこから僕が『ご隠居、草団子がありますから』と言って『それを早く言いなさい!』と黄門様が機嫌を直すのが笑いどころなのに、里見さんのアドリブがすごすぎてそこが効かなくなったぐらいで」  時代劇の中にペットボトルという現代用語を入れるのはある意味反則技。でも、プロレスで凶器攻撃が出ると観客が興奮するように、しかるべきシチュエーションでやればキャッチーなセリフとして絶大なる効果を生み出す。  キャストとしても代官の部下・園田役を務めつつ、里見の身の周りを世話し、ホテルへの送迎までを毎日務めた小川敏明は、千穐楽の2日ほど前に「あそこはペットボトルって言おうかなあ」とつぶやくのを聞いていた。ただ、本当に本番で口にするとは思っていなかった。 「小川さんから『里見さんは普段なら、ああいうことは言わない方でそういうアイデアが浮かんでもやっぱりキッチリと全うする方。でも、それを口にしたということは本当にこの舞台が楽しかったんだと思います』と聞いて。里見さんが稽古から千穐楽までの間に我々と一緒にやってきてどう思ったかが、あの“ペットボトル”のひとことに集約されていたことを知って、それをお芝居中に聞けてよかったって思いました」  大御所・里見による飛び道具的なアドリブだったことと、もうひとつは位の高い黄門様が言ったところに妙味あり。茶目っ気は、表現したものがポジティブに伝わるためのスパイスとなる。
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