たった一度の挑戦で借金500万円
たった一度。僕が多額の借金を背負ったのはたった一度で、たった一度だけカジノに行った時にうっかり500万の借金をしてしまっただけだった。普段から金を借りては飛ぶような人間ではない。たまたま抑圧されたサラリーマン生活から解放されて、踏み込んだロイター板で後先を考えずにモンスターボックスに挑戦してしまった。稼ぐ地力があるわけでもないから本当に一度きりの挑戦だった。
突如きた、新しい仕事の依頼
担当者から「少し電話がしたい」と連絡が来たのは4月に入ってすぐのことで、この時点で「もうこの美味しい仕事も終わりかな」と観念していた。
「クビですか」
連載がなくなることは今やとても恐ろしいことだ。ギリギリの生活の中、すでに原稿料は支払いサイクルの中に組み込まれてしまっている。今更この金を取り上げられてしまっては、身の回りの何かが止まる。電気かもしれないし、ガスかもしれない。裁判所からも電話が来ている。携帯の契約を変えたかったが、知り合いの法律事務所が言うにはネット料金の未払いを解決しないと新しい契約は組めないらしい。
「いや、PR案件の話です」
「それってお金もらえます?」
「もらえます」
「やります」
電話帳に登録していた「○○法律事務所」の名前を「○○法律事務所(出ても大丈夫)」に変更した。
長女・丹羽レイカ役の高橋ユウ(C)ひかりTV
金がないただの男、という編集部の認識
「ざっくり言うと『取り立て屋ハニーズ』という配信ドラマのPR案件です。犬さんにドラマを観てもらって、自身の体験と合わせながら日刊SPA!でレビュー記事を書いてもらう、という感じです」
ドラマのレビュー記事と言う言葉が最初に聞こえて嬉しかったが、タイトルで納得した。
「取り立て屋ハニーズ」
なるほど、確かに僕でも不思議ではない。そしてSPA!が僕のことをギャンブラーとしてではなく、ただの金がなくて借金をしている人間だと”正しく”認識している、ということも。
日雇いのアルバイトから帰ってきて送られてきた動画を観る。タイトルから予想されるのはウシジマくんみたいなストーリーだ。最近ではこういった貧困に焦点を当てた社会派作品が多い気がする。流行っているのだろう。
ハニーズローンという闇金で働く三姉妹の話だった。
闇金はおろか、むじんくんにも入ったこともなさそうな品の良い女性が三人も出てくる。彼女たちはそれぞれ別の仕事をして社会に擬態しながら取り立て稼業を続けていた。
「なるほどね、キャッツアイ的なね」
普段アニメばかり観ているので、実写というだけでかなり迫力がある。なんとなく業務用スーパーで買った安いビールを開けた。これが親父の気持ちか…。
次女・丹羽シズカ役の加藤小夏(C)ひかりTV
三女・丹羽リリカ役の掛橋沙耶香(乃木坂46)(C)ひかりTV
ワイルドを捨てたスギちゃんはただの無法
そもそも、僕は闇金を使ったことがない。存在は知っているが、実際に見たこともない。街金に借りるタイミングは「後で必ず金が用意できる」状況に限られてくると思うのだが、クレジットカードを守るために闇金で凌ぐこともあるようだ。僕は漫画や映画の知識しか無かったので、返済が滞った時に怖い目に遭うと思い、クレジットカード会社から先に借りまくったのだが。
そもそも、三姉妹がなぜハニーズローンで働いているのかと言うと、彼女たちは幼少期にどうやら借金のカタに売られてしまったらしく、売られた先がハニーズローンだったと言う。
金の代わりに子供三人を引き取ったのはハニーズローン社長の権藤という「食えないオヤジ」だ。物語はすでに三姉妹が大人になってからの話だが、長女のレイカは常に権藤を警戒しているので、関係は良好とは言い難いようだ。
三姉妹は権藤の下で取り立て屋としての技能を叩き込まれた。計画を立てる長女、ケンカが強い次女、ハッキングができる三女。
「心・技・体じゃん」と思った。
芸人のスギちゃんが風俗狂いの役として出てきたが「闇金なんて違法なんだからな」と、清々しいまでに借り倒そうとしていて「もしかしてスギちゃんはウシジマくんを読んだことがないのか?」と思った。だが、インターネットで誹謗中傷を受け続けていると、この考え方に至るのはある程度理解できる。世の中には法律こそが最強の盾で、その中にいる限りは無法も法だと思う人間はいる。
「合法だからギリ大丈夫、バカが騙されるだけ」
「相手も法を犯しているから訴えれば最終的に勝てる」
正直何が正しいのかもわからないこの世の中で、スギちゃんはワイルドを捨て、道理に従わず、乱暴だった。これをGoogle辞書では無法と呼ぶ。
借金を踏み倒すスギちゃんはワイルドじゃない(C)ひかりTV
借金は楽勝じゃないんだ
作品のチュートリアルとして当然ボコボコにされたスギちゃんはこの後ハニーズローンの使いっ走りとして活躍することになる。大の大人が三人の美女に囲まれた挙句に命乞いをしていたのだが、実際に何をされたのかはわからない。風俗狂いの無法スギちゃんでも新しい快感に目覚めることはできなかったらしい。
さて、第一の刺客として現れたのは売れないYoutuber「はたやまん」だった。彼は30を目前にして「働かない」を信条に、実家でちゃんと働く兄弟にボロカス言われながらも理想の自由を求めていた。この時点では、
「まだ僕は働いてるし、かなりのクズだな」
と思っていたが、このはたやまん、動画の企画として
「闇金から100万円借りたけど、返さないじょ〜!」
と言い、豪遊から取り立てられるまでの様子を動画にし始めたのだ。しかもそれがバズり始める。次々と高い服を買うはたやまん。カメラが回っていないところでも
「人生、楽勝だじょ〜!」なんて言ってしまっている。かなり辛い。ハニーズローンの三姉妹が口々に、
「借金をネタに人気になるなんて最低」
「クズが。もう人間じゃない」
なんて言っている。僕はビールを飲みながら
「違う!そこまで楽勝なんて思っていない!」
と言い返していた。
借金をネタにするはたやまん(加藤諒)は筆者の同類?(C)ひかりTV
はたやまんは僕だった
借りてしまったものは仕方がないだろう。頭を下げても減りはしないのが借金だ。前を向くことくらい許して欲しい。そう思った。
が、この債務者はたやまん、借金というコンテンツで大逆転を狙っており、そこがかなり引っかかってしまった。
僕はこいつとは違う。カメラが回っていないところではシコシコと働き、ネットで多少「借金してても大丈夫」と言って他の債務者を少しでも和らげられたらいいなとさえ思っている。善悪で言えば悪にいるのかもしれないが、その中でも絶望しちゃダメだよ、というメッセージを伝えているつもりで…。
はたやまんの元にファンの女性が会いに来ていた。
「私も借金してて毎日ビクビクしていたんですけど、はたやまんさんに勇気づけられて気が楽になりました」
何かを成し遂げたような達成感を見せるはたやまん。怪我の功名だとでも思っているのだろうか。というか、僕も外から見たらこんな風に見えてしまうのか…。
はたやまんは、僕だった。
闇金ハニーズローン社長・権藤役の渡辺裕之(c)ひかりTV
借金で夢を捨てた男の本音は?
SPA!は、僕にはたやまんを見せてどう思われると思ったのだろうか。オリジナルだと思っていた自分のペルソナが、コミカルに解像されていく。
「闇金は踏み倒しちゃえば余裕だじょ〜!」
必ず裁かれる僕が青天井に調子に乗り始める。こんなに軽い気持ちで金なんか借りてない。
24時間配信していれば大丈夫、という作戦で対抗しようとしたはたやまんだったが、ハッキングのプロである三女に携帯ごとハッキングされてしまい、その隙にあっさりやられてしまう。そして法外な利子を押し付けられたはたやまんは、就職活動を始めて改心するのだが、Youtubeは辞めてしまった。
「両親もまともになったって喜んでるらしいし」
「結果的に良かったんじゃない?」
そんなわけあるか。はたやまんは自分を守るためにそうしたのだ。夢に手が届かないことを自分で渋々受け入れただけだ。それが本当に一番良かったのか?夢から覚めるのは簡単ではない。
スギちゃんの時もそうだったが、正しいかどうかは置いておいて、三姉妹は債務者のその後をしっかり見守っている。そりゃあ確かに金を返すためにはちゃんと働かなきゃいけないが、普通の消費者金融はこんなに気にしてはくれない。
会話に混ざっているスギちゃんもなんとなく羨ましい。借金をしている人間が嘘をつかずに混ざれるコミュニティは貴重だ。トイチじゃなかったら借り替えてたかもしれない。
僕がはたやまんに無駄に感情移入しているうちに話は進んでしまった。
はたやまんをけしかけたのは、権藤だった。事件の真相に気づいた長女のレイカに詰め寄られた権藤は飄々とした態度で、
「君たちの成長を願っているんだよ」
「気を抜いたら足元を掬われるから気をつけろよ」
と答える。彼がラスボスになるのか、ラスボスへの切り札となるのかはまだわからない。
ここまでで2話。初っ端から変な琴線に触れてしまったせいか、あっという間に1時間近く経ってしまっていた。
(C)ひかりTV
“借金クズ”のテンプレート
7話まで観終わった率直な感想として、正直、債務者はこのドラマを観て普通に怒ってしまうかもしれない。まず、金を借りたら必ず貸した人間が存在するという現実を見せつけられる。別に僕はハニーズから金を借りたわけではないが、「回収しないと大変なことになる」と、ピンチになる度に少しずつ「削られていく」のだ。それだけは意識の外に置いておくことが借金生活においてかなり重要になってくる。
そして敵(僕としては「仲間」なのだが)として現れる債務者たちだが、現代社会においてかなり身近な例が多い。家族を養うためにネズミ講詐欺の片棒を担いでしまう若者、友達に合わせるためにブランド品を借金して買う女子大生。
「金が必要だ」
という剥き出しの弱い心が、なぜかハニーズローンの怪しい光に吸い寄せられていく。債務者を集めているのは権藤だった。彼は金のない人間の前に優しい顔で近づくが、金を貸した相手の未来は完全に無視しているようだ。
「だって貸してくれたのはそっちじゃん!」
と言いたいところだが、逃げた先にはハニーズが待ち構えている。マッチポンプのようなこの構図こそ闇金が「闇」たる所以なのかもしれない。
はたやまん以降の債務者も、ハニーズローンの前では限りなく平等だった。どれだけかわいそうな理由で金を借りたとしても、だ。
債務者代表としてはかなり辛い気持ちにさせられる内容もあったが、エンディングがかなり前向きな曲で救われた。開始0秒からテンションを引き上げてくれる曲は「フレンズ」の「急上昇あたしの人生」というらしい。もうYoutubeでMVまで上がっていて、かなり良かった。
★フレンズ「急上昇あたしの人生」(『取り立て屋ハニーズ』主題歌)
裏社会を生きる三姉妹が様々な債務者たちと戦うドラマ「取り立て屋ハニーズ」。
黒い羽が生えた天使と称された彼女たちは、人生を丸ごと買われてしまって返済が一生終わらないからこそ、債務者に対する憤りが強いのかもしれない。
取り立て屋ハニーズの人生が急上昇するかどうかは、これからのお楽しみだ。
(※この記事の原稿料は法律事務所への返済金とします)
『取り立て屋ハニーズ』
ひかりTV、ひかりTV for docomo、dTVチャンネルにて配信中(毎週金曜配信)
出演:高橋ユウ、加藤小夏、掛橋沙耶香(乃木坂46)、弓木奈於(乃木坂46)、森尾由美、とよた真帆、渡辺裕之 他
ひかりTV
https://www.hikaritv.net/sp/honeys_drama/
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