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<純烈物語>水戸黄門最大の見せ場を全うした白川裕二郎は ヒーローのあるべき姿をライブで還元する<第95回>

印籠を出す瞬間、留め具が引っ掛かって……

「あそこはいろんなシチュエーションが浮かびましたよね。逆さまだったらどうしよう、裏を出しちゃったらどうしよう。そうしたら最終公演の時に球(留め具)が引っかかって出なくて『この紋所が目に入らぬか!』と言ったあと、不自然な溜めが生じてしまったんです。あれは頭が真っ白になりました。お客さんが気づいているのもわかったし」  作品中一番の見せ場、一番の決めゼリフ、それを大掛かりな殺陣の直後にやる。「この紋所が目に入らぬか! こちらにおわす御方をどなたと心得る。畏れ多くも前(さき)の副将軍・水戸光圀公にあらせられるぞ!」を聞きたくて、全員が集まっているのだ。  これをライブで23公演分、キッチリと決めるのはとてつもないことである。ほかの場面のセリフであれば多少の融通は利くが、ここに関しては完成形をしっかり完成形として提供するのが必須。それを一度は役者の道から離れた男が担ったのだから、なかなかの大河ドラマだ。

「水戸黄門って、ヒーローものなんだな」

「公演を終えて花道を戻る時に手を振るんですけど、おじいちゃん、おばあちゃんが子どものようにメチャクチャ振ってくれるんですよ。子どもたちのヒーローの感覚に似ていましたね。水戸黄門って、ヒーローものなんだなって思いました」  その姿が、1月の有観客ライブを再開した時の白川と重なった。客席でラウンドができない分、左右の花道までいって視線を向けて手を振る。  今は握手ができないぶん、とにかく一人でも多くのオーディエンスに向けてそうしようと決め、ステージに上がっているのだという。その姿勢は御園座でも同じだった。  そんな白川にとって、1年2ヵ月ぶりの東京お台場 大江戸温泉物語ライブ。有観客でできなかった時にあれほど恋しかった「おばちゃんたちの顏」が、ホールコンサートよりも近場にある。 「お袋を見ていると、あと何年楽しんでもらえるかなという気持ちになるんです。これって、仕方がないことじゃないですか。だからこそ、一瞬一瞬を楽しんでもらいたいと思うようになりました。ファンのおばちゃんたちの顔を見られなくなって、何してんのかなと考えるのが自然になった。ウチの母ちゃんでもないのにそう思えるんですから。純烈やっていなかったら、こうはなってないよなあって」  戦隊俳優を経験したあと別の道を歩み、違う舞台で再びヒーローとはかくあるべきという現場を味わえた今、それをマダムに還元する。立ち位置や表現の仕方はそのつど変わっても、白川のやってきたことは地続きとなっている。  ライブも佳境に入り、残り2曲となったところで酒井は締めの言葉を小田井涼平に振った。そのタイミングでハッとさせられた。
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気配を感じさせなかった小田井涼平が……!?
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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