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ダービーに2頭同時出走を果たして注目。DMMの一口馬主革命に迫る

高額馬を1万口の超小口化で募集

「DMMバヌーシー」は、コンテンツから通信・インフラまで幅広い事業を手がけるDMM.comグループの一事業だ。出資希望者は「DMM.com証券」に専用の口座を開設して入金し、同証券はその資金を使って購入した競走馬を、JRAが認めた馬主資格を持つ別法人「DMMドリームクラブ」に委託。同クラブは馬を管理育成してレースに参加させ、獲得した賞金を同証券に還元する仕組みだ。  競馬法では馬主資格を持たない人物が共同馬主になる行為を名義貸しとして禁じているため、そこを回避するための知恵。競馬界では20件超の一口馬主クラブが存在するが、そのいずれも同じ仕組みである。このスキームにおいて、DMM.com証券にあたる法人は「愛馬会法人」と呼ばれ、DMMドリームクラブは、「クラブ法人」として位置づけられている。  個人馬主の資格には金銭面での高いハードルが設けられているが、そこを満たさない一般庶民にも、競走馬のファンドへの出資(一口馬主)というかたちで門戸を開いたというわけだ。 「JRAの個人馬主には、過去2年の所得金額が1700万円以上、資産が7500万円以上ないとなれません。実際、それだけのお金がないと継続して馬を持つことが難しいわけですが、小口化すれば馬を購入する費用も維持費も、一人あたりの負担が軽くなります。レースで賞金を獲得したときのリターンが少なくなる代わりに、支払いも減らしてリスクを少なく所有気分を味わおうというのが一口馬主クラブです。  厳密にいえば個人が直接馬主になるわけではありませんが、実際に費用を負担し、出資した口数に応じて分配もあり、所有する感覚が得られるので “自分の馬”という愛着度が高まるのは大きな魅力だと思います。また、“血の継承”という意味で、お気に入りの馬の仔の成長を逐一見守る楽しみもあります」(椎名氏)

椎名氏とDMMの出会いは記者時代に遡る

ラヴズオンリーユー

デビューから4連勝でGⅠ優駿牝馬(オークス)を勝ち、その後もGⅡ京都記念も勝利したラヴズオンリーユー。海外挑戦も果たし、香港競馬場行われたGⅠクイーンエリザベス2世カップも制した

 そんな椎名氏とDMMドリームクラブとの出会いは、2017年のこと。この年7月10日のセレクトセール(日本競走馬協会が主催するサラブレッドせり市場)で、DMM.comはラヴズオンリーユーを1億6000万円(税抜)で落札。  にわかに業界関係者の注目が集まるなかで、DMMドリームクラブによる一口馬主サービス「DMMバヌーシー」の創設が明らかにされた。当時、椎名氏はスポーツ新聞社の競馬担当記者として本件を追っていたそうだ。 「セレクトセール当日は事前に情報が出ておらず、いきなり高額馬を競り落としたので『DMMが競走馬事業に参入か!?』と、業界はにわかに色めき立っていました。僕はそれよりも前の段階からDMMの動きが気になって取材を進めていた経緯があったので、DMMサイドが気を遣い、『明日、公になります』と電話をくれました。  その後、単独取材をセットしてもらうような状況もあり、いろいろと事業について話を聞いているうちにご縁があって声をかけられ、自分もこの事業に参画することになりました。『面白そうな仕事ですよね』と言ったら、『じゃあ来ませんか?』みたいな、勢いのある流れでしたね。周りからは、『DMMはうまくいかなかったらすぐ撤退するぞ、やめとけ』と止められましたけど、面白そうだったので入社しちゃいました(笑)。  DMMバヌーシーは3億円超えの高額馬を1万口に超小口化し、維持費込みの払いきりで募集をかけるなど、当時ではかなり斬新な試みでした。伝統を重んじる競馬界に新しい風を吹かせるのは間違いないと直感しましたし、実際にかなり話題を呼んでいました。初期のあのやりかたは、認知を広げるきっかけにもなったと思います」(椎名氏)  取材対象として話を聞いていたDMMに気がつけば入社。一口馬主事業を任されるようになるとは、なんとも夢のある話である。
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自宅にいながら愛馬に会える
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