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男性ホルモンの正体とは。うつや不安感を訴える人は数値が激減

不調の訴えから改善までの経過

 改善した例では、次のような経過をたどったと考えられるという。 ・ストレスによって視床下部の機能が弱り、疲労感、頭痛、肩こり、腰痛、胃痛、便秘、めまい、イライラ、憂うつ感といった自律神経失調症や抑うつ状態になる ↓ ・精巣でのテストステロンの分泌量が低下 ↓ ・カウンセリングや投薬などの治療によって視床下部の機能が回復し、自律神経のバランスが整い始める ↓ ・自律神経失調症や抑うつ状態から脱する ↓ テストステロンの分泌量も回復する 「テストステロンの数値そのものは、EDやうつ病の指標との関係は認められませんが、治療に入る前に数値を測定しておき、治療後の数値と比較することが、患者さんの回復度合いを知るうえでの参考になるのです」  患者さんの中には、30代でホルモンの数値が高くてもそれ以上のストレスがかかれば男性更年期障害になる人もいる。逆に、数値が低くてもストレス度合いが低ければ男性更年期障害にならない人もいると言われると、ホルモンの数値が指標であることに納得できる。

ホルモンを補充すれば済む話ではない

 ホルモンの数値を指標として捉えると同時に、「ホルモン補充療法」を行わない理由は、ほかにも大きくわけて2つあるという。 「最大の理由は、これまでの臨床経験から見ると、ホルモン補充療法の必要性を感じられないからです。報告書によって多少の差はありますが、男性ホルモン補充療法の有効率は、おおむね70%前後。十分評価に値する高い有効率ではありますが、当院の抗うつ剤などの薬物療法とカウンセリング、認知行動療法で対応すると、80~90%の患者さんが完治、もしくは改善しているからです。ですからわざわざ、体外からテストステロンを補充する必要はないのではないか、と考えています」  第2の理由は、男性ホルモンの心身への副作用に対する懸念とのこと。体への副作用とは。 「体への副作用は、前立腺がんや前立腺肥大症、睡眠時無呼吸症候群、心不全、血液中の赤血球が増える多血症などのリスクを高めるため、これらの病気がある人は男性ホルモン補充療法を受けることができません。テストステロンには造血作用があるため、投与量が多いと血液の濃度が上がって多血症を引き起こし、脳梗塞などにつながる可能性もあります。そのため定期的に血液検査を行い、多血傾向にあるときは治療を中止することがあります。  ドイツからは、テストステロン療法の開始から6ヶ月以内ではエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)のリスクが高まるとの報告も出ています。『ホルモンの司令塔』といわれている脳下垂体の機能が落ちて、みずから男性ホルモンを分泌しなくなる可能性がある点も、問題視しています」
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男性ホルモン投与の副作用とは
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うちの・さくら。フリーインタビュアー、ライター。2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。趣味はドラマと映画鑑賞、読書

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