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男性ホルモンの正体とは。うつや不安感を訴える人は数値が激減

補充療法の無視できない副作用

 石蔵医師がとくに気になるのは、精神面での副作用だという。 「テストステロンがスポーツ選手にとって禁止薬物になっている理由は、筋肉を増強するだけではなく、精神的にも悪影響を及ぼすからです。テストステロンを補充すると、攻撃性や闘争心を高めて怒りっぽくなるなど、興奮しやすくなる傾向があります。  医師の間では、うつ病は治りかけがもっとも危険だと言われています。うつ病患者さんの自殺の多くは、症状のどん底を脱して体調が上向いてきた回復期に起きているからです。男性更年期障害の患者さんに抑うつ状態やうつ病の人が多いことを考えると、興奮しやすくなるときにテストステロンを投与することには抵抗を覚えます」  石蔵医師によると、抑うつ状態やうつ病の人に抗うつ薬を処方することは、心療内科・精神科などの「診療ガイドライン」に沿った治療法とのこと。しかし、うつ病の人に男性ホルモンを投与することは、このガイドラインに記載はないという。テストステロン補充療法についてはまだ各種のデータがそろっていない段階で、その効用や副作用にかんして確定したことは述べられていない前提で、石蔵医師が言う。 「私の外来でテストステロン補充療法を希望される患者さんには、必ず尋ねることにしています。『オリンピックではドーピングで禁止されている薬で、精神面に悪影響が及ぶこともあります。どうしますか』と」  副作用の情報を得ると、安易にはテストステロン補充療法を選択できない男性もいるのではないだろうか。カウンセリング等に重きを置く石蔵医師が運営する男性更年期外来の所在地は、大阪府。気軽に足を運べない地域に住んでいる人もいるはず。  しかも、クリニックの初回カウンセリングは自由診療で5万円と高額。そこで筆者が、「石蔵先生と同じような診療をしている、保険診療のクリニックを探す方法は?」と問うと、「現状は難しい」との答えが。その背景にある医療従事者側が抱えている葛藤とは。石蔵医師が行う認知行動療法を自分でもできる方法を合わせて、次回、お伝えする。 石蔵文信氏 (いしくら・ふみのぶ)1955年京都府生まれ。医学博士。内科・循環器・性機能専門医。イシクラメディカル代表。2001年に全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を開設。現在は「眼科いしくらクリニック」内で診療を継続。日本自殺予防学会理事も務める。夫の言動がストレスとなり妻の心身に生じる不調を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。定年後の男性のための料理教室や、社会活動の拠点となる「男のええ加減料理」や、子育て支援をしている祖父母世代がお互いに気楽に愚痴を言えるサイト「孫育のグチ帳~イクメンのグチもありよ~」も運営中。『夫源病』『定年不調』など著書多数。
うちの・さくら。フリーインタビュアー、ライター。2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。趣味はドラマと映画鑑賞、読書
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