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ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者が見据える、資本主義と日本の行く末

明らかに日本人の意識も変わってきた

斎藤幸平

斎藤幸平氏

――この矛盾に多くの日本人は気づいていると考えますか? 斎藤:これまでは、日本人が便利な暮らしを送っているツケが途上国に押し付けられ、現地で劣悪な環境で低賃金・長時間の労働を強いられている人々がいる事実や、‌’18年に縫製工場で働く1000人以上が死亡したバングラデシュのラナプラザビル崩落事故も、どこか遠い国の出来事と受け取る人が大半だったでしょう。  ところが、明らかに日本人の意識も変わってきた。それは、私の著書が注目された原因にも重なる。本のタイトルにある「人新世」とは、人類の活動が地球全体を覆い尽くした時代のこと。つまり、先進国が便利や安価といった恩恵を享受するツケを、途上国など外部に転嫁する場所は、もはや地球上にはないわけです。  私たちの生活の「破壊的」な側面は、今までは途上国などに押し付けてこれたが、もう途上国も甘受することはできず、先進国に返ってきている。気候変動や格差はわかりやすい一例でしょう。

美辞麗句を並べて上っ面の対策をしても、問題は解決しない

――’30年までに気候変動や貧困への対策、不平等の是正など、17の目標を各国で達成しようというSDGs(持続可能な開発目標)が盛んに呼びかけられているのも、危機意識の表れに見えます。 斎藤:これまで目を逸らしてきたが、無視できなくなってきたからSDGsなどと言いだしたのでしょうが、この方法では格差是正や環境保護など不可能です。  むしろ、問題の元凶は資本主義という本質を覆い隠し、人々が“やった感”を抱いて満足するだけになるのではないか。有史以来、人類が消費した化石燃料の半分を、’89年以降のわずか30年で使い尽くした事実を前に、今さらレジ袋を減らしたところで焼け石に水。EV(電気自動車)にシフトしても、充電する電気を作るのが火力発電だったらCOは減らない。  美辞麗句を並べて上っ面の対策をしても、問題は解決しません。かつてマルクスは、資本主義下のつらい労働や生活といった現実から目を逸らす宗教を「大衆のアヘン」と批判したが、私はSDGsを「現代版・大衆のアヘン」と見ている。そもそも、資本主義を推し進めてきた張本人の先進国が、よくSDGsなどと言えたものです。
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300円の牛丼のツケは途上国に転嫁されている
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