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ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者が見据える、資本主義と日本の行く末

300円の牛丼のツケは途上国に転嫁されている

斎藤幸平――ただ、グローバル資本主義によって、日本では安価にモノが手に入り、助かっている低所得者層が多いのも事実です。 斎藤:日本では、美味しい牛丼を300円で食べることができるが、これも資本主義の恩恵です。ただ、そのツケはブラジルに押し付けられ、肉牛の放牧と飼料の大豆畑のためにアマゾンの大森林が乱開発されている。1000円で手に入るファストファッションのTシャツも、海外の工場で低賃金労働に喘ぐ人が支えているのです。  そんな現状で、「森林破壊を止めろ」「現地労働者の賃金を上げろ」などと言えば、今の恩恵を手離すことになる……つまり、日本が続けてきた外部からの収奪が、多くの日本人にとって“豊かさ”の条件になっており、システムに取り込まれてしまっているのです。ここから脱却しないと、格差はなくならないし、みんなで地球環境を考えようという気運も高まらない。  そもそも、300円の牛丼を毎日のように食べなければいけないような賃金だったり、仕事を終えて帰宅しても食事を作る気もないくらい働かされていることに、気づかなければいけない。300円の牛丼を食べられる“豊かさ”に賛同してしまえば、自分たちに低賃金・長時間の労働を強いている企業には非常に都合がいい。企業がもっと賃金を支払えば、300円の牛丼はなくてもいいと考えられるようになるかもしれない。  問題の根源原因は、個々の努力が足りないからではなく、今の働き方を強いている経済成長や利益追求ばかりを優先する資本主義にあることを意識してほしいです。

今後、競争はより激化していく

――SDGsも是正を掲げていますが、資本主義の下では格差の拡大は避けられないのでしょうか? 斎藤:マルクスはもちろん、世界的ベストセラーの『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティも、格差拡大は必然と言っているように、資本主義は必ず勝者と敗者を生み出し、勝者はますます取り分を広げていくシステム。だから、みんな勝者の側に入ることを望むし、チャンスは一応、平等に与えられている。ビジネスで一発当てたり、株に投資して大儲けして巨額の富を築く人もいるでしょう。  ただ、一発逆転は、例外です。半世紀ほど前の日本なら、経済が大きく成長し、大きくなったパイを分配することで国民の暮らしはよくなった。一般的な会社員でも、一軒家を買えたわけです。ところが、30年間成長が止まった現在の日本では、今ある小さなパイの奪い合いが始まり、力の大きな資本と争っても個人は勝てない。  今後、地球環境は苛酷になり、人口減少が進み、パイが縮小していくので、ビジネスや投資で成功するチャンスはますます少なくなる……そして、競争はより激化していく。
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個人投資家が急増投資の理由は将来不安!?
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