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<純烈物語>恩人・前川清と迎えた座長公演千穐楽は笑いあり、アドリブあり、そして……<第106回>

千穐楽はフリースタイルに

 こうして連日続けられた「明治座7月純烈公演」も、最終日は多少長くなってもそれが特別感を生むシチュエーションとあり、けっこうなフリースタイルで臨んでいた。まず、第二幕「おんぼろの純烈号」のところで乗り込む前に酒井扮する嶋大輔ヘアーのジョーが「千穐楽を迎えられました。ありがとうございます」と挨拶。 「ところでさ、俺ずっと気になっていたことがあるんやど……この人、誰やねん?」  純烈号のセットを舞台に運び、去ろうとする黒子の女性の腕をやおらつかんだのは、ビリーというよりもすでに小田井涼平。いきなり拾われた「高瀬」さんは、恥じらいのあまり顔を隠したが「未来の舞台監督さんやぞ。今のうちゴマすっとこう」と純烈によって紹介されると、とてもお行儀よく一礼し拍手を浴びていた。  これだけで、裏方として報われる。純烈はこういうところが粋だと思う。  その後も、酒井と小田井はアドリブを入れまくる。星野真里演じるローズ・マンスフィールドに対し「おおローズ、ロース、リブロース」と愛の言葉を唱えるミスター・ウェンズディは、白川裕二郎が持つミュージカルアクターのポテンシャルを開花させたと言っていい。純烈で歌う時よりオペラ調だったのもあり、声の張りが際立っていた。 「ラブレターを取り返せ!」はヒロインのローズが大切に持っていた、ウェンズディからの手紙がすべて焼失されてしまう。でも、形として消えようと思いを伝えるならば、唄がある。  最後はウェンズディが歌うことでその思いを伝え、ローズと結ばれるというハッピーエンド。17日間27公演、純烈初座長公演の第1部は最後まで観客を笑わせ、泣かせて楽しませることができた。舞台上で「クマちゃんのような大きくてかわいいお腹」(劇中セリフより)を揺らしながら駆けずり回る酒井の姿は、たとえ衣装を着ていてもたたずまいそのものはいつもと変わらぬものだった。

前川清とのラスト3日間

 そして第2部の方も軽妙に進み、ラスト3日間のスペシャルゲストを務める前川清のコーナーへ。まずは『男と女の破片』を唸る。その声量のすごさは、口元から少し離して持つマイクの位置が物語っていた。 「今回の立場、完全に逆転したわけですよ。最初は7年前、新歌舞伎座でお会いした時には私が座長公演で2、3曲で(純烈は)楽していた。今回は私が2、3曲で楽させてもらっている。来年の2月にもね、明治座さんにお世話になるんですよ。その前に1月が新歌舞伎(座)かな」  1月公演となると、年が明ける前の12月から稽古へ入ることになる。この時点で2022年が忙しいスタートとなる前川に感心するメンバーたち。  どんだけ公演が入るのかと言わんばかりに白川が「年間どれぐらいやられるんですか?」と振ると、すかさず前川は「年間それだけよ」と答えて4人をズッコケさせる。そして「昔は一人でやったけど、今は一人じゃお客さんが入らないのよ」と、たたみかけるのも忘れない。 「僕、気づいたんだけど……歌ってヒット曲じゃないね(いやいや、ヒット曲でしょ!と一斉にツッコむ純烈)。ヒット曲というのは歌を聞きたいだったのが、今はカラオケで歌いたいとなるでしょ。そこが昔と違う。だからみんな、こういう……明かり、なんていうの?(ペンライトです)俺たちの時代はロウソクだもん。手、合わせていたからね(観客ウケまくり)。  70、80歳になっても皆さん、元気はあるのよ。でも、その楽しむ場がない。俺たちは聴かせようということに一生懸命になりすぎた。今は皆さんに参加していただいて、元気を出させてあげて、そしてその元気を見せてもらう。それを純烈がやってんだよ。聴かせるというものいいんだけど、楽しませるのが大事なんだなと、純烈のおかげでいい勉強になりました」  明治座の観客席が純烈のペンライトで波打つ光景は壮観だった。それは、歴史と現代のコラボレーションによる空間芸術のように映った。
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「実は今日、そのやめたメンバー……」
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