更新日:2021年11月20日 07:18
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<純烈物語>「やめたメンバー」と前川清がいた明治座で物語の新章が始まった<第107回>

直接会うのが無理なことはわかっている

「会っていないからこそ、これでいいのよ。この明治座という空間へ俺たちと友井、前川さんがいたということだけでいいんです。直接会うのが無理なことはわかっている。これがほかの会場だったらこういうことはない。明治座で、前川さんが出るとなったらそれをスルーする方が俺の中では変だから。これはどういう導きなのかって考えると、だからまだまだ頑張れということなんだと思います、純烈も友井も。  それって千穐楽の一コマなんだけど、お客さんにとってもすごく大事で。友井のことが好きだったけどペンライトの色を変えて、友井好きから純烈の箱推しに変わって応援を続けているファンをずっと見てきて、それに対しすごくありがたいという気持ちがあったから。会いたくならなかったか? 全然! 一定の距離でいるやつは一生会わなくても大丈夫。わかっているもん、お互い。距離感は変わらない」  現実的な事情を明かすと、今回の公演は新型コロナ対策の徹底により極めて限られた人間しかバックステージには入られなかった。初日がメディアの取材日に当てられたが、公演後の質疑応答は演者がステージ上、記者とカメラは客席と分けられ、いわゆる“囲み”はなし。  個別の取材もメンバーが控室から指定の場所へ移動。2日目以後、別件も含め3日ほどインタビューのため出向いたが、明治座地下にあるだだっ広い稽古場に数名の関係者のみが立ち会う形だった。  たとえ元メンバーであっても、控室へ顔を出せないのが今のご時世。だからこそ、それぞれがそれぞれの立ち位置で、ケジメをつけなければならなかった。 「いいことだよ」  酒井から友井の来場を聞かされた前川は、その意図を汲むかのごとくこれまたサラッという感じで返した。その上で、次の言葉を続けた。

「4人とも立派だったのは悪いことを言わなかった。なーんにも言わなかった」

「あのね、素晴らしかったのは……(関係が)終わったと同時にみんな悪いこと言いたがる。あいつはこうだとかね。4人とも立派だったのは(友井の)悪いことを言わなかった。なーんにも言わなかった。それがすごく、ね」  言うまでもなくこれは観客に向けての秘話である。その上で、誰かに言い聞かせるような口調はステージから離れたところへ座っているであろう、一人の男に対するメッセージだと思えてならなかった。  2年半の間にできた距離を、前川は明治座という意味のある場所で瞬時にして埋めてみせた――。  あの時、自ら去った世界をもう一度またぐ。たとえそれがステージではなく客席であっても、覚悟を要したはずだ。 「逆に見に来る方がシンドいと思う。俺やったら見にいけへんもん。逃げられるやん。言い訳できるやん、なんとでも。でも、あいつもあいつでこういう機会はないっていう気持ちだったと思うし……そこは(気持ちが)晴れていてほしいよね」  芸能界を去る時は、山本浩光マネジャーが東京から大阪まで送った。今回は、自分で明治座にやってきた。客席へ座るとあれば、ファンに気づかれる可能性もある。そこで、どんな顔をすればいいのか。そもそも自分には純烈の空間に足を踏み入れる資格があるのか。  いくつもの葛藤を抱えながらシートに身を沈め、過去が去来する中で眺めた舞台から投げかけられた前川の言葉によって、友井もケジメを持てたのではないか。ただ、たとえそこで心が揺さぶられたとしてもこれは純烈のエンターテインメントショーである。油断してはならない。  せっかくのいい話を「おまえなんか、メチャメチャ悪いこと言うとったやないか」と白川をダシにして落とす酒井。どんな過去の追憶よりもこのノリによって、友井はあの頃の純烈を味わったはずである。 「今日来ているなら彼に成功してもらいたいし、彼のおかげで今の4人がね……何があっても離れても感謝ですよ」 「前川さんにも明治座さんにも助けていただいて、その時にお客様にも助けていただいて、ファンの皆様にも助けていただいて。やめた友井の焼き肉屋にも通っていただいて、みんなに助けられてこの空間の中にいるということを、改めてお礼を言いたいと思います」  前川と酒井のやりとりのあと、その場で5人による記念撮影がおこなわれた。紅白初出場までが第1章だとすれば、直後のスキャンダルから明治座におけるこの瞬間が純烈物語の第2章――今回の初座長公演はそう位置づけられると強く思った。終演後、それを酒井へ伝えたことにより冒頭の「決着」へとつながる。
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”令和版人生ゲーム”、激しいサバイバルが始まったな
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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