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<第108回>初座長の明治座公演は「実質零(ゼロ)座長」。次なる座長「初主演映画」へと走り出した<純烈物語>

『純烈のハッピーバースデー』で共演者を祝福

 白川、小田井、後上がそれぞれに花束を贈呈。BGMは、もちろん『純烈のハッピーバースデー』(オケ)だ。客席も含め多幸感に満ちたところで、締めの言葉に戻り、白川が語る。 「僕たちの中では胸につかえていたものがあったんですけど今回、こうして明治座さんで初めて座長公演をやらせていただいて初めて胸のつかえが取れた感じがしてホッとしています。それはいなくなってしまったメンバーも感じてくれているんじゃないかなと思っています。とにかく、こうやって千穐楽を迎えることができて本当にありがたかったです。  貴理子さん、最後にバックハグするじゃないですか。毎日毎日やさしさに甘えてしまってどんどん強くなっていったんです。それで貴理子さんの肩、腰、その他諸々体が非常に心配で。明日から貴理子さんとハグできないのが非常に残念なんですけど、体のメンテナンスはしていただきたいです」  舞台終盤、白川扮するミスター・ウェンズディはマダム役の磯野にバックハグを要求される。初日はキツく抱き締める感じだったのが、中日頃にはプロレス技のベアハッグのごとくユサユサと揺さぶり、千穐楽では人形のように振り回すほど激しいものになっていた。  娘の許嫁であるウェンズディにすり寄るマダム・ブラウンは、1920年代のニューヨークにもかかわらず機関銃をぶっ放しての「カ・イ・カ・ン」など、薬師丸ひろ子オマージュムーブを連発。今回の舞台が面白いものとなったのは、純烈の4人以外も笑いをこなした点が大きい。  中でも曽我廼家の秘儀・ヅラ飛ばしは名人芸。大見得を切るさい、禿げ頭を隠すカツラが勢い余って後方へ吹っ飛び、女中頭で女房役の上地春奈がダイレクトにキャッチするという阿吽の呼吸を連日披露した。  頭を振るやあえなく前に落ちた回もあったものの(その瞬間、舞台上の全員が気まずさのあまり素に戻る)、ほとんどが成功。これには純烈も口を揃え絶賛していた。何かと揶揄され肩身の狭い存在のヅラに、芸術性とダイナミズムという価値を植えつけた功績は大きく、文献として残しておくべきと強く思い、ここに綴らせていただく。 「毎回、白川さんは大丈夫ですかと聞いてくださるんです。やさしいのね。私もだんだん受けを覚えて……えーっと、何を言おうとしたのかしら。お客さんにも声をかけていただいて、白川さんのハグ羨ましいですって。よかったです。いいにおいがするんですよ」 「(コロンを)つけている時とつけていない時がありました」  そんな磯野と白川のやりとりに続き、マイクは小田井へ。

純烈で座長公演をやるというのが夢で純烈人生が始まった

「僕の場合、紅白歌合戦に出場することでなく、いつか純烈で座長公演をやるというのが夢で純烈人生が始まったんで、自分の夢がかなったというのは紅白の時よりも実感しているのが本音でございまして、とても嬉しく思っております。何よりも嬉しいのが、ここにいるスタッフも含めてですがこのメンバーだからできることをやれたという自負があります。唯一無二の存在、それを見届けていただいたお客様には本当に感謝しかないです。  僕らがやった(劇中シーンの)“指鉄砲”というのも最初は面白くもなんともなかった。それを皆さんのアイデアをいただいて、皆さんの笑顔につながったんだなというのを千穐楽、特に噛み締めながら今日やっていたので、本当にこの座組でしかできないことが今回できたということで誇らしく思っています」  小田井にとっての座長公演がいかに大きなものだったかが、そこで明らかにされた。同じ演じる仕事であっても、おそらくそれはテレビドラマや映画、他の舞台とはまったく違う位置づけだったのだろう。  いつの日かと頭に描いてきた座長というポジション。だが、じっさいにやってみたら口から出たのは“唯一無二”の言葉に表れたチームとしての達成感だった。 「いやー、もうホント、純烈、いろんなことがありますよね。2年半前は二度とここでできないというか、立つことすらできへんとそのつもりで一生懸命、前川座長の公演をやらせていただいたんですけど、まさか2年半後にこういった自分らが真ん中に立つステージ、そういったオファーが来るとはまったく思っていなかった。  純烈を応援してくれたファンの皆さん、ホンマに恐ろしいパワーや。想像を超えるというかね、運がいいグループよ。あとはみんなもコロナにならなかった。スタッフの皆さんもPCR検査ずっとクリアして、普段の生活から気にされてお客様も同じやと思う。怖いけど純烈にいきたいからと痛い注射を頑張った人もいれば、誰にも触れないよう北海道からタクシーで来た人もいると思いますわ。そういった一人ひとりの熱意でこの空間、このしあわせな空気が流れていると思います」  最後にリーダーの酒井が感謝の意を伝え、千穐楽の幕は閉じた。開幕の時点で「純烈結成以来最大の試練」と言っていたが、無事完走を果たした。  終演から20分後、普段着に着替えた酒井は「熱中対策水」日向夏味のソフトパウチを持って稽古場にやってきた。初座長公演を終えての感想は「実質的には零(ゼロ)座長」だった。
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真のプロフェッショナルに引き上げてもらった
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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