更新日:2021年09月18日 09:16
エンタメ

<純烈物語>後上翔太(新人)を気にかけながら撮影は進んだ。『スーパー戦闘 純烈ジャー』秘話<第114回>

裸、お色気、全力疾走……なんでもこなした後上

 作品からも伝わると思われるが、後上翔太という新人戦隊役者は演技力をカヴァーしてあまりあるほどの体当たりっぷりだった。裸は当たり前、色っぽいシーンもこなせばとにかく走りに走った。そして町中のきれいとは言えない川の中へ入り、駆けずり回った。  やるかやらぬかの選択肢など、後上にはない。やることが前提で、それをどう合理的に形とするか。そんな人間性がわかっている酒井だから主役に据えるのを前提として、純烈ジャーを発想したのだろう。  後上を理解する酒井がいて、酒井を信用する後上がいる。これは他の2人とはまた違った領域であり、また他者が立ち入るような関係性ではない。 「酒井君のリーダーとしての現場におけるアイデアやプランニング、プロデュース力が出た作品になったと思います。久々に裕二郎と一緒にやりましたけど、変わらないですね。カッコよさとお茶目なところが同居しているあたりは、ハリケンジャーの頃のままだった。小田井さんはいつものあの感じ。

2週間ほどで集中的に撮った

 こうして話すとただ楽しそうなんですけど、純烈としてはほかの仕事がある中、2週間ほどで集中して撮ったのは大変だったはずです。にもかかわらず全員自然体だから、現場は本当に楽しかった」  関係者試写会で、できあがった作品を通しで見た時、中野氏は「これはすごいモノができたぞ」と唸ったという。プロデューサーとして予算は把握し、そこからだいたいどんな作りになるか読めるのだが、純烈ジャー関しては描き方やストーリー、物語の流れなどが想定以上の内容となっていた。  つまり、プロデューサーの想像を上回るものとして、世に出されるのだ。だからこそ中野氏は純烈ファン、特撮ファン以外の層にも届いてほしいと心から願っている。 「どんな届き方をするか……今日がその第一歩ですね」  中野氏の取材は、一般公開前の完成披露挨拶(先行上映会)が催された8月26日の日中に東映ビデオ株式会社内でおこなった。前日、長崎におけるディナーショーへ出演していた純烈のメンバーは、羽田空港から東銀座の同社へと直行。  完成披露挨拶の前に、5社の取材(リーダーは6社)をここで受けることとなっていた。相変わらずの忙しさである。  到着した4人は、東映ビデオが入ったビルの地下にあり、山本浩光マネジャーのお気に入りというステーキハウスでランチ。店の壁には、純烈ジャーのポスターが貼られていた。 「ダブルのダブルで!」  山本マネジャーの威勢のいい声が響いた。要はダブルステーキというメニューを2人前頼んだのだ。それでいて「ライスは1人前でいいです」と、体に気をつけることも忘れない。 「僕はリブロースで」  先の明治座公演で何度も口にした「おおローズ、ロース、リブロース」のセリフがまだ意識に染みついているのか。それを白川に突っ込むと、ニコッと笑った。  すでにほかのテーブルで先に食べ始めていたメンバーと山本マネジャーは店を飛び出し取材の準備へ。そんな純烈の日常を見るにつけ、いつも思うことがある。「この人たちは、いったいいつ舞台や映画の長ゼリフを覚えているのだろう」と。  取材用に2部屋が取られており、一方で進められるうちにもう一方では次の社が準備するという機能的な流れ。その中で何度となく同じ質問をされながら、4人は聞き手とその後ろにいるスタッフまで楽しませようとする姿勢を忘れない。  取材を終えた時には、どの社もニコニコ顔でいるのだ。酒井の単独取材終了を待って、17時に東映ビデオを出て新宿バルト9へ車で向かう。分刻みのスケジュールをこなすとは、こういうものなのか。同行させていただいたことで、その一端が味わえた。  メンバーが劇場のバックステージへ到着したのは、第1部の上映が佳境に入った頃だった。本当ならば、みんながどんな顔をしてスクリーンを眺めているか確認したかっただろう。  じっさい、上映後におこなわれた完成披露挨拶で登壇した酒井は、グルリと客席に並ぶ顔を見やった。さぞや、いい眺めだったに違いない。まだ一般封切りがされていないとはいえ、純烈結成時からの夢が本当に実現した場なのだから。
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「寅さんの渥美清さんみたいにお客さんの顔を覗いてみたかった」
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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