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YOASOBIの仕掛け人が語る、ヒットアーティストの生み出し方

偶然の重なりが生んだ「YOASOBIの人選」

YOASOBI

YOASOBIのキービジュアル

 音楽ユニットの人選については、屋代さんがオファーしたい人をピックアップし、山本さんと話し合いながら決めていったという。 「コンポーザーのAyaseはボカロP(音声合成ソフトのボーカロイドを使って楽曲制作する人)として投稿を始めて間もない時でした。投稿している楽曲の幅も広く、小説を音楽にするというプロジェクトにぴったりだと思い、インスタのDMで声をかけたんですよ」(山本さん)  コンポーザーは決まったので、次にボーカルを探すべく、3人でグループLINEを作ってさまざまな応酬を繰り返したという。 「誰にするかずっと探し続けましたね(笑)。有名無名問わず、候補となりそうなシンガーのリンクを数多くAyaseに送っていました。そうしているうちに、ソニーミュージックのSD(新人開発・発掘セクション)で育成契約をしていた幾田りらに目が留まりました。こうして4人が集い、楽曲制作に向けて本格的に動き出したんです」  幾田りらに関しては、2019年7月に東京海上日動あんしん生命のCMでスキマスイッチのヒット曲「全力少年」をカバーし、その歌声に注目が集まっていた。  プロジェクトを立ち上げた同時期に、Ayaseとikuraの才能が偶然にも見出され、出会うことになったのは、まさに奇跡とも呼べるのではないだろうか。

納期に追われなかったからこそ、楽曲の完成度を追求できた

 しかし、ここから4人の長い挑戦が続くことになる。  グループLINEで喧々諤々しながら、より良いもの、今までにない新しいものを求めてトライ&エラーを繰り返した。  何度もデモを作成し、試行錯誤を極めた結果、およそ30曲ものデモを作ったそうだ。  Ayaseが中心となって、原作の小説から着想を得て楽曲づくりに励むなか、「自分の良さを殺してまで、ヒット曲を出そうと気負わなくていい」と山本さんは助言したという。 yoasobi「Ayaseも『小説から音楽にする』というのは初めてだったので、色々と悩みながら制作活動をしていました。ただ、自身のセンスは大事にしてほしかったので、彼らしさが存分に伝わり、かつ世の中に出したときに面白いと思ってもらえる楽曲になるまでブラッシュアップを続けたんです。  歌詞に関しても、原作の世界観が伝わらないといけないですし、楽曲を聴くことで小説を読みたいと思ってもらえるようにもしたかった。世の中にまだないものを出すと決めたからこそ、Ayaseも精魂込めて取り組んでいましたし、せっかく掴んだチャンスをものにしたい一心も持っていたと思います」  他方、現在の多忙な状況から比べると納期に追われてなかったため、「楽曲の完成度が特に際立ったのでは」と山本さんは続ける。 「当時は、ただ単に『大賞に選ばれた小説から2曲を作る』ということだけ決めていたので、極論を言うとヒットしなくてもよかったんです。もちろん、多少の期待は込めていましたが……(笑)。とにかく面白いものを作るために濃密な時間を使えたことが、『夜に駆ける』が飛び抜けて世の中に浸透していった所以なのかもしれません」
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MV公開して終わりのはずが……
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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