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『鬼滅の刃』遊郭編後半の見どころと宇髄天元の魅力

宇髄の弱音

kimetsu10

『鬼滅の刃』10巻(ジャンプコミックス)より

  口にする言葉は力強い宇髄であるが、ときおり見せる本心からの言葉とモノローグの中では、彼の「弱い心」が見え隠れする。 〈俺が選ばれてる? ふざけんじゃねぇ 俺の手の平から 今までどれだけの命が零れたと思ってんだ〉(宇髄天元/10巻・第87話「集結」) 「そう俺は煉獄のようにはできねぇ」と、心の中で、自分のことを煉獄杏寿郎と比べるシーンがあった。無限列車の乗客200人を守り切った煉獄、遊郭の一般市民から何人も犠牲を出してしまった自分。

宇髄の父、煉獄の父

   宇髄は自分の出自が忍の家系なことを、誇る部分と、恥じている部分がある。時代とともに衰退していった「忍」の任務は、全盛期であったとしても、人の影、社会の暗部に潜らねばならない仕事だ。それに対して、煉獄家は代々鬼狩りの「柱」を輩出する、誉れ高い剣豪の家系だった。  使命とのはざまで己を見失った時も、煉獄の父は、息子たちを「鬼狩り」という修羅の道から遠ざけようとしたのに対して、宇髄の父は、「忍」の血をより高めようと、兄弟同士殺し合いをさせる狂気に取り憑かれてしまった。―煉獄とはちがう。自嘲気味に呟く、宇髄の苦悩は深く、彼の心の傷が癒えることはない。
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宇髄と「遊郭の鬼」との共通点・相違点
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1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!

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