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『鬼滅の刃』遊郭編後半の見どころと宇髄天元の魅力

宇髄と「遊郭の鬼」との共通点・相違点

 『鬼滅の刃』遊郭編には、重要キーワードがいくつかある。そのひとつが「選ばれた人」だ。 〈そして竈門君 君はもっと凄い力がある 日の呼吸の選ばれた使い手は 君のように 生まれつき赤い痣が 額にあるそうだ〉(煉獄槇寿郎/10巻・第81話「重なる記憶」) 〈お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ 選ばれた才能だなぁ〉(妓夫太郎/10巻・第87話「集結」)  炭治郎も宇髄も他者から「選ばれた人」だと言われ、それを強く否定するシーンが見られる。彼らは自分の才能に無自覚で、それゆえに慢心することもない。  そして、「何に選ばれているのか」というのも考えねばならないポイントのひとつだ。彼らは「運命」に選ばれている。「生まれつき」「生まれた時から」という表現が頻出することからわかる。  遊郭の鬼たちも、突出した才に恵まれていた。妓夫太郎には他者を圧倒する「強さ」があり、堕姫には比類のない「美しさ」が備わっていた。それを、「美しさ」と「強さ」を兼ね備えた宇髄が敵として立ち向かう。象徴的な戦いといえるだろう。  厳しい現実世界の暗部を生き残るためには、「美」と「戦闘力」はかなり有効に働く。親に恵まれなかった彼らが、遊郭という異様な場所、忍という特殊集団を生き抜くために、この2つの能力が必要だったのだ。

弱音をかくし、ハッタリをうまく使う宇髄

   遊郭の鬼との戦いは、より熾烈さを増していく。追いつめられると、宇髄は嘘とハッタリを会話に散りばめ、相手をうまく撹乱し、戦いを有利に運ぼうとした。 〈絶好調で天丼百杯食えるわ 派手にな!!〉(宇髄天元/10巻・87話「集結」) 〈勝つぜ 俺たち鬼殺隊は 余裕で勝つわ ボケ雑魚がァ!!〉(宇髄天元/10巻・88話「倒し方」)    宇髄の言葉は不思議だ。彼が口にすると、ハッタリも虚勢も、まるで真実のように力を持つ。周りの人の弱い気持ちを立て直すことができる。  危機的状況にあっても、薄い笑みを浮かべ、明るい声で勝利を宣言する宇髄のたたずまいは、炭治郎や伊之助たちを自然と勇気づけた。彼が派手に生きるのは、こんなふうに誰かの心を励ますためだ。だから宇髄天元は、弱音を見せずに、誰よりも豪奢に装い、放胆に振る舞い、華麗に戦う。  宇髄の派手な語録は、彼の“鎧”のひとつなのかもしれない。しかし、その下にある優しさが、周囲を惹きつける真の魅力だともいえる。遊郭編では、彼が本心を真面目に叫ぶ場面がいくつかある。それを見つけるのも、遊郭編の楽しみになるだろう。(文/植 朗子)
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!
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