役所のアプリはなぜ使い物にならないのか?
――田中さんは、著書『
成田空港検疫で何が起きていたのか』で、コロナ禍での検疫現場の様子とともに、アフターコロナに向けて検疫業務への提言を行っています。保健所長となられて3か月強ですが、保健所業務における課題はありますか?
田中:検疫にも共通することですが、効率の良いデジタル化の推進。これは課題の一つですね。自宅療養中の方への健康観察のためにアプリを導入しようとしましたが、現場から「使いにくい」との声が上がり、結局、
民間の方を使って、人海戦術で個別に電話をかけています。
――アプリのどんなところが使いにくいのでしょうか?
田中:動作が重く、入力項目が多いということ。感染している人は我慢してまで使いにくいもの使ってくれません。デジタル化は前から進めておくべきだったと痛感しています。
厚生労働省HPで、コロナ接触確認アプリ(COCOA)の不具合を知らせる画面(2022.1.28)
――使い勝手のいいアプリの開発はこの先の具体的な課題ですね。
田中:確かにそうなのですが、原因から考えなくてはいけません。そもそもなぜ、使いやすいアプリができないんだ?ということです。
――なんででしょう。
田中:それは、
役人が仕様書を書けないからでしょうね。アプリ等のシステムを開発するときは事前に仕様書をきちんと作る必要があります。とくに大きな予算がかかるものは、入札になります。業者はその仕様書を見て、工数やそれに必要な人件費を割り出し、システム開発費を計算します。
――でも、それは民間の企業のコンペと同じでは?
田中:役所の仕事は仕様書通りに作れば、それでいいんです。逆に言えば、仕様書に書かれていないことはやらなくてもいい。例えば、誕生日を入力する項目があり、そこに「8」月「45」日と入力してしまったとき、普通はエラーの警告が出ますよね。
でも、エラー処理の必要性が仕様書になければ、業者が気を利かせて、「エラー警告が出るようにしておこう」なんてしなくていいわけです。
元厚生労働省成田空港検疫所長。静岡市保健所長(2021年10月より)。
1987年、山口大学医学部卒業。1991年、山口大学大学院医学研究科修了、医学博士。山口大学医学部助手、厚生省健康政策局医事課試験免許室試験専門官などを経て、2007年、JAXA有人宇宙技術部宇宙医学生物学研究室主幹開発員。2010年、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課ゲノム研究企画調整官。2011年、内閣府参事官(ライフイノベーション担当)。2012年、厚生労働省神戸検疫所長。以降、同・東京検疫所長、同・北海道厚生局長を経て、2018年、同・成田空港検疫所長就任。著書に『子供に教えるためのプログラミング入門』、『算数でわかるPythonプログラミング』、『
成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪』がある。
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