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遊郭編・最終回直前。『鬼滅の刃』分析本の著者が改めて魅力を解説

神話の地で育ったからこそ惹かれた「神様不在の物語」

鬼滅の刃

『鬼滅の刃』11巻(ジャンプコミックス)より

伝承や民話では似た系統の話の種類を「話型」と言い、そこから内容の特性を考えていく分析法がある。実は『鬼滅』も複数の話型にあてはめることができるという。 「たとえばグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』です。主人公の炭治郎は鬼化した妹の禰豆子を人間に戻すため、凶悪な鬼に立ち向かう旅を共に続け、最後に家に戻る。典型的な兄妹の物語なんですよね」 そもそも植さんが伝承や怪異に興味を持ったのは、出身地の和歌山県が関係している。幼い頃から神話時代の伝承が残る神倉神社や熊野本宮大社の話に親しみ、小学校の時の校章は八咫烏だった。 「それが当たり前のことだったので、ごく自然に伝承研究の道に進みました。一方で、『鬼滅』って主人公サイドのキャラクターが常に自分で難局を切り開いていく『神様が出てこない物語』じゃないですか。自分では解決できない不幸が起きた時、初めて不死川実弥が神様に祈るシーンがあるんです。その表現は圧倒的でしたし、素晴らしかった。神様、仏様はいると思っている人が割と多い環境で育ったので、余計に神様不在の物語が響いたのかもしれません」

心が動いた瞬間の言語化が今、求められている

先にも触れたが、『鬼滅夜話』はキャラクターごとにセリフを引用し、その本心を考察する構成になっている。その訳は? 「『鬼滅』ブームが起きた時、たくさんの有名な先生方がご自身の専門に寄せた解説記事を寄稿されていたんです。素晴らしい論考である一方、『ストーリーを追いづらい』という声が結構上がっていて。それを見て、ストーリーに沿った形で物語を読み直したい方がたくさんおられるんだなと思ったんです。 私はテキスト分析も専門にしていますし、読者の方が読みやすい形になるならと、この構成にしました。執筆前、キャラクターごとにセリフを分けて音読してみたのですが、各キャラの個性によってセリフが細かく描き分けられていることがよくわかりました」 昨年末の発売以降、植さんの元にはこんな反響が寄せられている。 「多かったのが、『自分が感じた感動を言語化してくれてありがとう』というコメント。今は話したいことがあっても直接会って喋るのが難しく、SNSでのやり取りが増えていますよね。そんな時、作品の良さを文章化した本がある……ということで、鬼滅ファン同士の交流の話題のひとつになったのかなと思います。 もうひとつ、『泣きました』という感想もすごくいただくんですね。泣くって心が揺れるということ。なぜ自分は『鬼滅』に出合って泣くほど心が揺れたのか。そこを言語化することが今、求められているんでしょうね」
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遊郭編&刀鍛冶編の見どころを解説
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1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!

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