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パワハラ、薄給激務…労働問題の相次ぐミニシアターで社会派映画が上映される矛盾

浮き彫りになる「恵まれた者の特権意識」

ミニシアター深田さんは高校生に映画表現の意義を教える活動もしている。実際の授業で使うテキストを見せてくれながら、深田さんは問題の当事者が表現の道を選べる重要性について語ってくれた。 「恵まれているとか恵まれていないに関係なく、誰もが自分の考えや世界観について表現できる状況を作らなければならない。そのためには欧米や韓国のように、文化への助成金を充実させることが非常に大切なんです」(深田さん) 作り手も劇場も配給会社も、表現の世界に関わっている点では共通している。しかし、その表現は、恵まれた者の特権意識が前提になっていないだろうか。その活動に、どれだけ末端の人間への想像力が働いているのだろうか。

アップリンク被害者の会へのアンケート

ここで、実際に映画の現場で、ハラスメントや搾取の被害に遭った人の声にも耳を傾けてほしい。浅井隆取締役からパワハラの被害を受けたアップリンク元従業員ら5名は「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment(UWVAH)」を結成。被害者の会として、浅井氏とアップリンクを提訴した。 今回、UWVAHのうち3名が2問からなるアンケートに協力してくれた。 「末端の人間への想像力」を持つきっかけとして、被害者たちが現在進行形で抱いている苦しみに目を向けてほしい。なお、回答はすべて原文ママ、記名の許可もいただいている。 アンケート①問題が解決したとはいえないアップリンク系列の劇場で、社会派作品が配給され、映画人たちが登壇している状況をどう思われていますか。 単純に不思議で仕方がない。被害者の沈黙と、周囲の者の沈黙とでは意味が全く違う。私たちのようにアップリンクに足を運べない人たちがいる。その被害の声に連帯してアップリンクに行かないことで抗議を続けている人たちもいる。アップリンクで配給されている映画に関わる人が想定する「観客」の中に、私たちはいないのだなと感じる。(鄭優希さん) 「どのような気持ちでアップリンクの系列劇場で上映したり舞台挨拶に登壇したりしているのだろう?」とは思う。罪悪感や葛藤があるのに他館に断られて仕方なくなのか、それとも躊躇も無く、劇場の労働問題に興味が無いのか。自身がアップリンクで舞台挨拶するのを「自虐ネタ」にした映画監督がいたが、そのような光景を見てしまうと業界内で問題はかなり軽視されていると感じてしまう。(清水正誉さん) 上映中止の判断を「断絶」と言及した声明と共にアップリンクで上映をした社会派と呼ばれる作品がある。断絶ではない。今内部で声を上げる人々に、味方がいるという安心感や力を与えうるものでもある。だからこそ浅井氏は深田晃司氏に対して嫌がらせを行ったのではないか。(※) アップリンクは社会派の作品を上映・配給することでも、信頼を築いてきた。これまで通りアップリンクに配給をつづけることは、明らかにされてきた加害行為に対して「問題ない」とお墨付きを与えている。その責任を自覚してほしい。(浅野百衣さん) (※石塚による注釈)浅井隆取締役が他人を装い、自身の退任を要求する社員や深田晃司監督に批判的なメールを送信し、謝罪していたことが2021年11月に判明した。
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忘れられていく「ミニシアターの労働問題」
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