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門田博光、江夏豊etc.昭和プロ野球のサムライたちは「取材時も意識的に圧をかけてくる」

実は1本の糸で繋がっていた5人のレジェンド

――そのうえで、なぜこの5人のラインナップなのか? 松永:90年近いプロ野球史の中では、無数の確執がありました。確執によって浮かばれた人、無残に葬り去れた人など、人生悲喜こもごもです。今回の書籍では章ごとに1人の人物の生き様を掘り下げているんですが、単なるオムニバスではなく、それぞれの章にしっかりと関連性を持たせたいと思っていました。そうなると、同世代の人が必然と集まってしまうので、より長く現役生活を続け、数あるプロ野球史の事件簿を生で体験している選手をピックしていったら、この5人が残ったという感覚です。一見すると、何も関連がないよう見える5人ですが、実は一本の糸で皆が繋がっているのです。  特に、門田博光さんは是が非でも取材したいと思っておりました。ホームラン、打点ともに歴代3位の記録(ホームラン、打点ともに歴代1位は王貞治、2位は野村克也)を持ちながら、いわば世捨て人のようにプッツリと球界から消えてしまった経緯をどうしても知りたかった。これは作家というよりファン目線です。それでもいいと思いました。現に『週刊SPA!』の連載で門田博光さんのエピソードを掲載したときも、読者からの反響はもの凄かったですから。ファン目線でもいいので「知りたい」という欲求がノンフィクションを書くうえで一番モチベーションが上がることだと思っていますから。好きだからこそ知りたい、書きたいという意志が芽生え、本書の根幹を支えるものだと信じています。

膨大な取材量により蘇った昭和プロ野球の臨場感

第5章では”歴代最高左腕”とも評される江夏豊の生き様にフォーカス。なぜ彼は無頼を貫かざるを得なかったのか--

――5人のレジェンドと向き合ったことで感じたこととは? 松永:海千山千のレジェンドたちですから一筋縄ではいきません。これまで無数に取材を受けているので、取材対象者のちょっとした言動や動きで、人間性まで察知されてしまいます。「ダメだこいつ」と判断された時点で、取材を受け流されてしまう。そうならないためにも、こちらの姿勢をどう見せるか。気に入られようとするのではなく、どれだけの準備と覚悟を見せられるかどうかを常に意識していました。いわば、斬るか斬られるかの真剣勝負ですよね。  とはいえ、この5人が見せる圧は本当に凄かった。要所要所で、意識的に圧をかけてくる。ピッチャーでいうと、彼らは勝負球を投げるべきときがわかるんです。このときに少しでもだじろいだり、怯んだりしたら負け。ビビりながらも前のめりになって挑まないといけません。  とにかく、取材中は相手の目を反らさず、話している意図を見極めながら一歩先を見ることに集中していました。ことごとく一歩先は外れましたが(笑)。
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レジェンドの生き様に見る、今を生き抜くヒント
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

92歳、広岡達朗の正体92歳、広岡達朗の正体

嫌われた“球界の最長老”が遺したかったものとは――。


確執と信念 スジを通した男たち確執と信念 スジを通した男たち

昭和のプロ野球界を彩った男たちの“信念”と“生き様”を追った渾身の1冊


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作品概要・収録内容
確執と信念 スジを通した男たち


1章:門田博光 奇才と孤独 〜稀代の豪打者が抱える“19番”への恩讐〜
2章:田尾安志 衝突とプライド 〜天才打者が選んだ「新設球団 初代監督」の道〜
3章:広岡達朗 反骨と改革 〜プロ野球界に68年身を置く男の矜持〜
4章:谷沢健一 派閥と人徳 〜“ヤザワ”と中日ドラゴンズ〜
5章:江夏豊 義理と器量 〜裏切られ続けた史上最高左腕


【著者プロフィール】
松永多佳倫(まつながたかりん)
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。著書に、『まかちょーけ 興南甲子園春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園-僕たちは文武両道で東大を目指す-』、映画にもなった『沖縄を変えた男―栽弘義 高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園-僕たちは野球も学業も頂点を目指す-』(以上、集英社文庫)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』(以上、KADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『日本で最も暑い夏 半世紀の時を超え、二松学舎悲願の甲子園へ』(竹書房)、『永遠の一球-甲子園優勝投手のその後-』(河出書房新社)、『沖縄のおさんぽ』(KADOKAWA)、などがある。オフィシャルサイトwww.takarin-m.com

【仕様】
●発売日:2022年4月17日
●ページ数:392頁
●定価:2,200円(本体価格2,000円+税)
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