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「安倍氏銃撃事件はヤラセ」…拡散される陰謀論とそれを支持する人たちの不気味さ

また出てきた、「亡くなったのは影武者」説

 そして当たり前だが、警察もまたプロであることを忘れてはならない。「銃創が不自然」「他の銃弾が見つかっていない」など、ネット上で勝手な検証を始める者は後を絶たなかったが、少なくとも素人が思い付くような懸案を調べない訳がない。要人警護の不備を指摘される中にあって、捜査上の見逃しは許されない。既に銃創も解説され、銃弾の跡も見つかったと報じられている。 「ヤラセ」の根拠として、噴飯ものの“都市伝説”も拡がっていた。「クライシス・アクター」と呼ばれるものだ。異なる事故や事件現場の画像から似た人を見つけ「また同じ人が出演している=茶番である」と騒ぐ程度の低いネット民がいる。  特に有名なのは「M・H(実名イニシャル)」という女性で、実在の人物だ。テレビ局員として現場レポートやいくつかの番組に出演した画像が出回ったことから誤解され、陰謀論者の誹謗中傷の的にされている。  今回は救命措置をする輪の中にいた女性がM・Hさんとされ、「やっぱりね」などと揶揄を受けていた。  荒唐無稽が過ぎる「安倍元首相生存説」も流れた。「本物は逃げている」「亡くなったのは影武者」などの妄言が確認できる。これらはQアノン信奉界隈などではおなじみ「ゴム人間」という用語が源流。著名人はゴム製マスクをかぶった偽者が多い、とのことだ。介抱される安倍氏の「ズボンが後ろ前」との指摘もあった。これは「状況が裏返ることのメッセージ」らしい。

現実と虚構の区別がつかなくなると、別の形で再び悲劇が起こる

 いずれも何を言っているかよく分からないが、「耳の形が」「首の皺が」「服装が」と、画像の映り具合で騒ぎ立てる者は一定数いる。政治家や芸能人は特に標的にされやすい。  こうした幼稚な話で通じ合うコミュニティーと化したものが、ネット上にはある。画像や映像などの断片的な情報から、今回も例えば「(小道具の)血糊に違いない」などの不謹慎な発信をし、それを称え合う者がおそらく万単位でいた。実に不気味だ。  JFK暗殺、911テロなどでも分かるように、「陰謀論」はどんなに論破されても後世まで根強く残る。根拠の薄い話がいつの間にか「隠された真実」とされて拡がり、故人や傷付いた人達を冒涜する。  今回の事件でも、それでなくても表現の自由の範疇を超えた投稿が散見された。事実と反する話を嘲笑とともに多く流すアカウントには、プラットフォーム側の厳しい対処をお願いしたい。  このコロナ禍では、流言を鵜吞みにする人達と、社会との分断が確実に生まれている。現実との境界が失われてネットの闇に溺れる人が増えれば、また違った形の悲劇も起こりかねないだろう。<文/黒猫ドラネコ>
九州出身。30代後半のライター。怪しいスピリチュアルや陰謀論、信者ビジネスなどを観察し潜入取材も敢行する。超甘党。 Twitter:@kurodoraneko15
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