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「外交」で戦争の動機を摘み取れ<自民党衆院議員・村上誠一郎氏>

重要なのは外交努力

―― 国際社会に目を向けると、米中対立が深刻化しています。台湾をめぐって軍事衝突が起これば、日本は否応なく巻き込まれることになります。 村上 私は中国がロシアのように何の見通しもなく台湾に軍事侵攻するとは思っていませんが、問題はアメリカが中国を刺激した場合です。8月にアメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問しましたが、あのような対応を続ければ、売り言葉に買い言葉で、中国が強い対応に出る可能性がまったくないとは言い切れません。  米中間で軍事衝突が起こった場合、台湾には米軍基地はないので、米軍は沖縄や岩国から出ていくことになります。そうなれば、日本は安倍政権のころに解釈改憲によって集団的自衛権を認めてしまったので、あっという間に戦争に巻き込まれてしまいます。こうなることを予想していたので、私は解釈改憲に反対していたのです。  しかし、いま日本に必要なのは、台湾有事が起きたらどうするかを考えることではなく、台湾有事が起こらないように必死の努力をすることです。それを行わないで防衛費を倍にしろとか敵基地攻撃能力を保持するなどというのは本末転倒です。  安全保障の要諦は敵を減らして味方を増やすことです。敵を増やすことばかりならば、いくら防衛費を増やしても間に合いません。  敵を減らす上で最も有効なのは、やはり外交努力です。外交によって相手が戦争に踏み切ろうとする動機を摘みとっていくことが大切です。  そもそも安全保障が重要だと言うなら、食料安全保障にもっと目を向けるべきでしょう。日本の食料自給率は38%ほどで、ほとんど輸入に頼っています。ロシアのウクライナ侵攻以降、国際社会では食料の争奪戦が起こっています。日本はすでに中国に買い負けており、このままではお金があっても食料を買えなくなるかもしれません。いくら防衛費を増やしたところで、国民が飢えていれば戦争どころではありません。  日本はアメリカと安保条約を結んでいるため、どうしてもアメリカの影響を受けてしまいます。しかし、アメリカに追従しているだけでは、日本の安全を確保することはできません。現在の米中対立の中で日本が主体的に考える時期にきているのではないでしょうか。

自由闊達な議論を取り戻す

―― 日本は危機的状況に置かれています。ここから立ち直るためにはどうすればいいでしょうか。 村上 まずは優秀な人材を政界に集めることです。それぞれの地域社会には前途有為な人たちがいますから、彼らを育てていく必要があります。  そのためには、政治のあり方を変えなければなりません。小選挙区制の導入によって党中枢に権力が集中するようになったことで、ときの為政者に忖度する人たちばかりが出世するような構造になってしまいました。これでは優秀な人たちは馬鹿らしくて政界に来ないでしょう。  行政の立て直しも急務です。先日、国交省の役人に聞いたところ、東大から国交省に来た新人は一人しかいなかったそうです。農水省に至ってはゼロだそうです。若い人たちは官僚という仕事に魅力を感じず、弁護士や外資系企業に就職してしまっているようです。  現在の官僚機構は内閣人事局がつくられたことで、みんな官邸の顔色をうかがうようになり、自由闊達な雰囲気が失われてしまいました。しかも、薄給のうえ毎日深夜まで仕事があるとなれば、誰も官僚になりたがらないでしょう。内閣人事局を見直し、公務員の待遇を改善する必要があります。  何よりも重要なのは、自由闊達な議論を取り戻すことです。自由な議論が許されなければ、民主主義は機能しません。昨今では民主主義国家でも機能不全に陥っている国もあります。アメリカではトランプ前大統領のように分断を煽る人が依然として大きな影響力を持っています。これでは対話や協調が失われるのは当然です。  私がこの10年間あえて党内で正論と思うことを言ってきたのは、民主主義を守りたいからです。今後も間違っていることは間違っていると指摘し、党内の民主主義を回復させたいと思っています。 ―― 村上さんに期待している人は少なくないと思います。ぜひ政治や行政を変えてください。 村上 私は小選挙区制導入にも反対し、すべてのマスコミから「守旧派」「抵抗勢力」と批判されましたが、それでも愛媛2区の有権者たちは私を当選させてくれました。いまも全国からたくさんの人たちが私を支えてくれています。本当にありがたいことです。おかげさまで意気軒昂です。  しかし、政治や行政の改革は1人で取り組んでもうまくいきません。「天の時、地の利、人の和」という言葉がありますが、多くの人たちが共感し、しかるべきタイミングが来たときに初めて成し遂げられるものだと思います。  そのためには、まずは国民のみなさんに日本の現状を理解してもらわなければなりません。それに向けた努力を今後も続けていきたいと思います。 (11月9日 聞き手・構成 中村友哉) 初出:月刊日本12月号
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2022年12月号

特集 米中戦争の危機 日本を戦場にしないために
ひろゆき氏の沖縄ヘイト
右派政党の台頭を招く「西洋の没落」

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