更新日:2022年10月31日 12:02
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続出する五輪汚職逮捕。政治とカネ=利権根絶のカギはどこにあるのか?<評論家・佐高信氏>

―[月刊日本]―

政治と経済の癒着

東京五輪―― 東京五輪汚職をめぐって元電通の高橋治之氏や、AOKI前会長の青木拡憲氏、KADOKAWA会長の角川歴彦氏などが逮捕されました。森喜朗元総理も任意で事情聴取を受けています。一連の問題により、一部の人たちが利権を食い物にしている構図が明らかになりました。佐高さんは政治や企業の問題を追及してきましたが、なぜこうした利権が生じてしまうのでしょうか。 佐高信氏(以下、佐高) 政治が経済に介入するところから利権は生じるんですよ。本来であれば、いま統一教会をめぐって問題になっている「政治と宗教の分離」ではないけども、政治と経済は分けておかなければならない。政治は政治の原理、経済は経済の原理で回す必要がある。この原理が踏みにじられ、政治と経済が癒着してしまっている。  森喜朗などその典型だよね。彼は事あるごとに経済に介入してきた政治家です。ただ、森をかばうわけではないけども、これは森個人の問題というより、清和会という派閥の問題と見たほうがいい。清和会は自民党の田中派や宏池会といった派閥と比較すると、傍流の派閥でしょう。だから彼らが付き合う相手はどうしても新興企業になる。昔からある大企業だって政治と癒着し、巨大利権を形成しているけど、こういう会社は主流派の派閥に抑えられてしまっているからね。  だからリクルート事件のようなことが起きるわけだ。あの事件が起こったとき、リクルートは新興企業だったでしょう。森はリクルートから未公開株をもらっていたけど、森が一番危なかったのはあのときだよ。地元の駅や地下道にスプレーで「森喜朗、近日中に逮捕」などと大書されて大変だったらしい。  それから、清和会は文教族が多いですよね。文教族はスポーツと結びついているから、今回の東京五輪のような問題が出てくるわけです。  もう一つ言えば、文教族は教育で国民を馴致するという考え方を持っており、タカ派が多い。だから「経済安保」といった発想になるんですよ。これも政治が意図的に経済に介入し、経済を歪める考え方だね。  その一方で、経済が政治に助けを求めてくるという側面も見落としてはならない。電通なんてまさにそうでしょう。彼らは自らの力で何も生み出していない。政治家と仲良くなり、国から仕事をとってきているだけだ。単なるブローカーですよ。  竹中平蔵だってそうですね。竹中は小泉政権の「官から民へ」を主導したけど、あれは要するにパブリックでなければならないものをプライベートにし、そこで企業に金儲けをさせたというだけの話です。鉄道や郵便、水道をはじめ、国がカバーしなければならない領域というものはたくさんある。ここは競争原理に晒してはならない。警察や消防を私企業にするようなものです。竹中平蔵のやったことはそういうことですよ。  しかも、竹中は市場競争が大切だなどと偉そうなことを言っていたけど、実は自分たちは市場競争なんてしていない。電通やパソナが政府から仕事をとってくるのは、市場競争の結果ではなく、政治とズブズブだからでしょう。これほど市場原理とかけ離れていることはないよ。

利権争いとしての国鉄民営化と郵政民営化

―― 自民党の歴史は利権争いの歴史と言ってもいいと思います。国鉄民営化や郵政民営化のような政策も、利権争いと切り離せません。佐高さんは『自民党という病』(平野貞夫氏との共著、平凡社新書)で、国鉄民営化や郵政民営化と利権争いの関係を指摘しています。 佐高 もともと国鉄の利権は、佐藤栄作が戦前の鉄道省出身だったから、いわば佐藤の天領だったんですよ。これは佐藤の側近で鉄道省出身の西村英一、のちに運輸大臣を務めた橋本登美三郎、同じく鉄道省出身の細田吉蔵へと引き継がれていきました。  佐藤のもとには田中角栄もいたけど、佐藤は田中を警戒し、国鉄の利権に手を出させなかったと言われている。佐藤の代理として動いていたのは西村や橋本でした。しかし、佐藤の派閥は最終的に田中角栄が継承することになります。その結果、角栄は西村や橋本を取り込む形で国鉄利権の大部分を引き継ぐことになったのです。  その後、角栄はロッキード事件の影響もあって、脳梗塞で倒れました。これにより、角栄の影響力は次第に弱まっていった。その隙をついて国鉄利権に手を突っ込んだのが中曽根康弘でした。中曽根は国鉄を民営化することで田中派の利権を奪い、田中派を弱体化させようとしたわけだね。  また、国鉄民営化には社会党との覇権争いという面もあった。社会党の支持母体は国鉄労組でした。そのため、国鉄を分割民営化してバラバラにしてしまえば、労組の力が弱まり、当然社会党の力も弱くなるわけです。中曽根はそれを狙っていた。のちに中曽根自身が国鉄分割民営化の目的は社会党潰しだったと白状しています。  郵政民営化について言えば、あれは小泉純一郎と野中広務の利権争いです。野中は郵政族のボスだったからね。そこに小泉が郵政民営化を仕掛けることで、野中の力を削ごうとした面があったことは間違いない。 ―― 激しい利権争いをしていたころの自民党は、良くも悪くもバイタリティがありました。現在の活力を失った自民党より、よほどマシだったと思います。しかし、利権争いにばかり力を注いでいると、どうしても国民への視線を失ってしまいます。そのため、単純に「昔の政治は良かった」とは言いづらいところがあります。 佐高 私の言葉で言えば、「三面記事を読む精神」が失われるということだね。どういうことかと言うと、元首相の海部俊樹は秘書として自民党の河野金昇という代議士に仕えていたんだけど、河野は新聞の三面記事をよく読んでいたそうです。それで、親子心中の記事などが出ていると、いまにも泣き出しそうな顔で「海部君、親子心中の記事が出ているよ。悲しいね。こういう記事を読んで心が痛まないような男は政治家の資格はないよ」と言っていたらしい。  また、河野は足が不自由だったそうで、「足が治って運動会で1等になった夢をよく見るんだ。でもな、テープを切った瞬間に目が覚めるんだ」という話をしながら、「政治は日の当たらないところに血を通わせるものでなくちゃいけない。働く人や弱い人の味方、そんな政治家にならなきゃダメだ」と諭していたという。  利権争いに熱中している政治家は、三面記事を読んで泣くことはないでしょう。世襲政治家だってそうですよ。彼らは先代や先々代から利権を引き継いでいるからね。市井の人々の気持ちがわかるはずがない。岸田文雄も世襲議員だけど、2世、3世の政治家が多くなったことで、自民党は救い難いほど劣化してしまったね。
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2022年11月号

特集①レームダック化する岸田政権
特集②五輪汚職と外苑再開発 利権政治と決別せよ

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