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ロシアとウクライナの“即時停戦”を求める、日本国内の声に感じる違和感

ロシア軍占領下の地域にとっては「停戦=平和」ではない

 もう一つ「即時停戦」の大きな課題は、必ずしも「停戦=平和」ではないということだ。ロシア軍が占領していた地域では、同軍による深刻な人権侵害がくり返されていた。首都キーウ近郊の都市ブチャは、昨年3月、ロシア軍に占領されていた一か月間で400人以上の住民が殺害された。  ロシア側は「ウクライナの自作自演」などと虐殺を否定していて、日本の親ロシア派の識者には同調する者もいる。昨年4月にブチャを訪れた筆者は、ウクライナ当局の助けなく独力で市内に残る被害者の遺体を探し、遺族や隣人等に話を聞いて、身元やされた時の状況を確認した。  現場では、シェルターや屋内に隠れていた人々が水を求めて屋外に出たところをロシア軍に銃殺されたなどの証言を何件も聞いた。また、隠れている人々をロシア軍が連行して殺害したとの証言もあり、同様の証言はブチャ近郊のイルピンなど他の地域でも聞いた。これらの虐殺が「ウクライナの自作自演」ということなど、あり得ない。
 また被占領地域では、ロシア軍による性暴力も深刻だった。キーウ州警察のイリーナ・プリャニシコヴァ報道官は、筆者のインタビューに対して「ロシア軍による性暴力について、捜査を行っている」と話した。「ロシア兵士らが『子どもを殺す』と脅して母親を何度も強姦したり、別のケースでは5歳の子どもを強姦したとの報告もある」(同)。
 例え、「即時停戦」でロシア軍とウクライナ軍の戦闘が一時的に行われなくなったとしても、ロシア軍占領下の人々の命や人権が脅かされる状態は、真の平和とは言い難い。仮に停戦監視団/部隊が現地に派遣されたとしても、人権侵害抑制のため十分な役割を果たせるかは、これまでのPKO/PKF部隊の実例から言っても疑わしい。ロシアとの衝突を恐れた各国が停戦監視部隊の派遣を躊躇することも、十分にあり得ることだ。

中国など「中立国」への批判と対話が必要

岸田政権の防衛費増大・敵基地攻撃能力保有に反対するデモ

岸田政権の防衛費増大・敵基地攻撃能力保有に反対するデモ

 必要なのは「即時停戦」ではなく、「ロシア軍の即時かつ全面的な撤退」であろう。また、「今こそ停戦を」の声明は、欧米のウクライナへの兵器供与を批判しているが、それならば非暴力でいかにロシアの暴走を止めるかの具体的な提案をすべきだ。  例えば、ロシアへの経済制裁に参加していない「中立国」、特に中国やインド、サウジアラビアやトルコなどへの働きかけを行うことは重要だろう。ウクライナ侵攻は侵略戦争を禁じた国連憲章に明らかに反する。「国連憲章を守れ」というド正論を訴え、中国などの「中立国」に「いつまでロシアをかばうつもりなのか?」と批判の声を高めていくことが必要だ。  中国などの「中立国」が対ロシア経済制裁に加われば、ロシアには大きな打撃となり、戦争を継続することが難しくなるからだ。他方、中国がロシアとの関係を強化してきた背景には米中対立があるから、日本が仲介役となり米中対立の緩和を目指すべきだろう。それは、日本含む東アジアの平和と安定にとっても好ましい。  日本のいわゆる左派・リベラルの一部には、岸田政権がウクライナ侵攻に便乗して改憲を主張して防衛費が増大することへの反発から、また欧米とロシアとの対立が世界大戦や核戦争に発展することへの危惧から、ウクライナに対しても反感を持ってロシアを擁護するという歪んだ反応がある。  だが、リベラル・左派こそ、日本政府に対しては改憲志向や防衛費増大を見直すこと、中国に対しても国際秩序の回復や維持に貢献することを求めていくべきではないか。真に平和主義者であるならば、ウクライナの平和と東アジアの平和を両立する方法を模索すべきだ。 文・写真/志葉 玲
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