——これも一概には言えないと思いますが、孫さんから見て最近のネットも使える中国の若者世代 は、どんな歴史観やアイデンティティを持っているんでしょうか。 孫：2013年に習近平が国家主席に正式就任し、愛国主義教育を強化し始めて10年経ち、最近は 上の世代より若者のほうが反日的、ナショナリズム的な傾向が強いかもしれません。これから社会 進出していく世代なので、そういう意味ではやはり心配です。最近、中国は本当に毛沢東時代に逆戻りしています。僕の親世代が子供の頃は学校でロシア語、ソ連の言語を勉強したんですが、英語教育の代わりにロシア語を再び必修にする学校も最近の中国では一部あるので。宇露戦争で、 中国がアメリカと関係悪化して、ロシアとの関係をさらに緊密になる国際情勢の原因です。 ——中国のヤバい事件をこれだけ紹介していると、SNSなどで中国の方からネガティブな反応をもらうこともあるのでは？ 孫：中国のネットで「あまり中国の恥を海外にさらすな」「売国行為だ」ってめちゃくちゃ批判されてい ますよ。「殺すよ」って。 ——なかなか過激なこと言われていますね（苦笑）。 孫：日本でもネットで炎上すると個人を特定したりしてリンチしますけど、中国のネットにも私刑の慣 習が蔓延っているから恐ろしいですよ（笑）。偽装食品や手抜き住宅といった悪徳ビジネスは現地では周知の事実なので、「孫さんは本当のこと言っているだけ」といったコメントもなかにはあります。ただ、中国のネットサービスだと規制が厳しくて、私を擁護するようなコメントは不適切として削除されがちです。 ——例えばですけど、この漫画が中国に正規ルートで発売される可能性はあるんですか？ 孫：いや、この本は絶対ダメですね（笑）。 ——でも、孫さんが漫画の元ネタにしているニュースは中国でもネットニュースやSNS投稿などで取り上げられているわけですよね？ 孫：ボーダーラインとしてはネットニュースで「こんな中国人がいてモラルが低い」みたいなニュアンスの報道ならまだOKです。でも、中国国内における悪徳ビジネスを1冊の本にまとめて出版すると、社会問題的に取り上げることになるのでNGですね。中国共産党の批判につながる可能性があるので。