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緊急事態条項が議員任期延長問題に矮小化されるいじましさ<法学者・小林節>

極めていじましい現行議員たち

「緊急事態条項」とは、要するに、非常時に、国家権力が迅速に行動できるように、憲法を一時停止して、三権分立と人権を棚上げにして、行政権独裁体制にするものである。だから、その本質的な危険性に鑑みて、日本国憲法の制定時にあえて否定されたものである。  つまり、緊急事態条項により強制的にいわば「冬眠」させられる国会による「民主的統制の維持」などという本質的に在り得ない「口実」を掲げて、現に国会議員という特権を享受している者たちの歓心を買って国会の審議を通し易くしようとする提案者の魂胆が見えてしまう。  緊急時の国会の存続と言えば、憲法54条2項の「参議院の緊急集会」の制度がある。これは、最も短い場合でも三年間は存続する。そして、三年以上も続く緊急事態(首相独裁体制)など、経験上、あり得ないし、あってはならない話である。  なお、全ての国会議員は、当選したら、憲法43条に明記されているように「全国民の代表」である。だから、最悪・最短の場合でも、半数の参院議員による「国会」が三年間は存在するのだから、何の心配もない。  にもかかわらず、自民党からの改憲(改悪)提案に懐疑的であった野党議員の一部が、この「議員任期の(選挙を経ない)延長」にだけは関心を示し、衆院憲法審査会の審議が進んでいる事実は誠に残念である。  議論抜きの軍拡と凶暴なまでの格差社会の拡大を前にして、今、なすべき事が山積している議員たちが、「冬眠」中の議員特権の延長を論じている姿は、実にいじましい。 <文/小林節 初出:月刊日本2023年7月号> こばやしせつ●法学博士、弁護士。都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』(ワニ文庫)など
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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