ニュース

緊急事態条項が議員任期延長問題に矮小化されるいじましさ<法学者・小林節>

―[月刊日本]―

自民党の最終目的への布石である「緊急事態条項新設」

自民党

yu_photo – stock.adobe.com

「改憲」を党是とする自民党が第一に改憲したいと考えている点が9条であることを、自民党は隠してはいない。  2012年に同党が党議決定した全文の改憲草案の中で、同党は、9条を改憲して、「国防軍」と「自衛権(交戦権)」を明記することを提案している。さらに、2018年に党議決定した改憲4項目の1で、「『必要な』自衛のために自衛隊を保持する」という改憲を提案している。  だから、自民党が、わが国が海外へ戦争に行けないように制約している9条を改憲して、普通の軍事大国になることを目指していることは明らかである。  しかし、今でも、自民党としては、9条改憲で、国会両院それぞれの三分の二以上で改憲発議はできたとしても、それが国民投票で過半数の賛成を得られる確信は持てていないはずである。  そこで、アメリカによる「押し付け」憲法に対する恨みを原点とする自民党改憲派は、2011年の東日本大震災を契機に「お試し改憲」の対象を「緊急事態条項」の新設に移したようである。  その主張は、大要、次のものである。  戦争、大きな自然災害、世界的なパンデミック(大感染)に襲われた際に、国民の生命と財産を守ることは国の責務である。そのような場合についてヨーロッパ等の憲法には対処規定があるが、日本国憲法にはそれがない。だからそれを日本でも新設しよう。  しかし、現行憲法の12条と13条には、「至高の人権といえども、『公共の福祉』には従わなければならない場合がある」と読める規定がある。そして、それに基づいて、戦争の場合の国民保護法等、災害の場合の災害対策基本法等、パンデミックの場合の感染症対策基本法等の緊急事態法制(法律群)が現に存在し、それによって緊急時の国民の生命と財産は守られるようになっているし、現に守られてきた。だから、あえて800億円もの国費を消費して憲法を改正する必要などない。

本質的に緊急事態条項と矛盾する「おまけ」

 自民党の改憲草案によれば、緊急事態だと内閣(つまり首相)が宣言したら、首相は、本務の執行権(行政権)に加えて、国会から立法権(つまり国民の人権を制約する権限)と財産処分権(つまり、主権者国民に代わって国の財産を処分する権限)と地方自治体に対する命令権まで併有することになる。まるで首相が独裁君主のようになる。それに対して、私たち国民は、公の命令に従う義務を負う。これではナチスの全権委任法である。一体、自民党は何がしたいのか? 恐ろしい話である。  しかも、この改憲提案には、「議員任期の延長」という、本質的に緊急事態条項と矛盾する「おまけ」まで付いている。  その提案理由は、緊急事態の最中に国会議員の任期が満了してしまう場合には、国民の代表である議員による民主的統制(監視)をなくさないために議員任期の延長を認める規定が必要だということである。  これには驚かされてしまった。
次のページ
極めていじましい現行議員たち
1
2
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

記事一覧へ


gekkannipponlogo-300x93

月刊日本2023年7月号

特別対談 A・パノフ×東郷和彦 元駐日ロシア大使、全てを語る――ウクライナ、広島サミット、米中対立、日ロ関係……

自公連立をいつまで続けるのか

安倍元首相一周忌にあたって 本田善彦 台湾の「安倍人気」を読み解く

石橋湛山没後50年

おすすめ記事